激怒を演出しながら
制裁を抑制する事情
中国外交部は高市答弁を「政治的挑発」と批判し、それを受けて、大阪の中国総領事はSNSで挑発的な投稿を行い、日本国内で炎上を招いた。
その投稿は削除されたが、与野党双方から強い反発が生まれ、自民党外交部会は政府に対し「ペルソナ・ノン・グラータ(外交官追放)」を含む対応を求めた決議を提出した。
中国側の反発は、一部マスコミの言う「習主席が激怒したから」というより、「習主席が激怒しているという体」で行動しなければ、習主席の威信に傷がつきかねないからだろう。つまり、中国国内向けの演出と見るべきだ。
実際、言葉の強さとは裏腹に、制裁は限定的にとどまっている。それは偶然ではなく、中国が抱える複数の制約が重なった結果である。
第一に、米中戦略環境の悪化がある。中国は台湾統一を国家戦略の中心課題として掲げてきたが、上述したように台湾との制度連携を強化し、半導体・軍事・外交支援を体系化し始めた。いま日本に対して強硬すぎる制裁を実施すれば、中国は日米台同盟モデルを逆に促進することになる。
中国からの日本への圧力は、台湾の孤立ではなく、台湾政策における西側の結束を生む可能性のほうが大きい。中国にとって最も警戒すべきは「国際世論が台湾防衛で一致すること」である。
第二に、中国経済の停滞がある。中国は深刻な景気減速に直面しており、外からの投資に依存するしかなくなっている。
とくに製造機械類、精密加工、半導体製造装置、高性能素材、FA機器など、多くの基幹産業で日本企業は中国の産業を土台から支えている。全面的な経済制裁を行えば、日本以上に中国の産業競争力に大きなダメージを与えかねない。これは中国がアメリカに対して正面からの批判を控えているのと同じ理由である。
第三に、中国国内政治の力学がある。台湾政策は中国共産党にとって権力の正統性を担保する「核心的利益」である。台湾に対してだけは弱腰を見せることは許されず、つねにファイティングポーズをとり続けるしかない。
だが、同時に、アメリカとの軍事衝突や経済連携の解消は回避したい。中国政府は常にダメージコントロールしながら「怒りの演出」を強いられている。







