今回も強い言語で威嚇しているが、制裁については限定的であり、中国政府が今回の批判を「日本」ではなく、「高市首相」、とくに「答弁そのもの」に限定しているのはそのためだろう。

 経済停滞は、中国に戦略的余裕を失わせている。中国外交部は強硬的かつ攻撃的で挑発的な「戦狼外交」の姿勢をとっているが、これは、国内に中国共産党の威信を示す必要があるからであり、権力基盤の脆弱性から「譲歩」できる余裕が失われたからだとみるべきだろう。

 つまり、戦狼外交は今後、さらに強化されると考えざるを得ない。

中国の「弱り目」を
突いた高市答弁

 今回の中国の反応は、単なる外交的反発ではない。今回の高市首相の答弁は、偶然ではあるが、中国の3つの「弱り目」を突いたのだろう。それは上述した、日本政府の親台湾シフト、アメリカによる台湾「実質国家」への引き上げ政策、中国経済の深刻な停滞の3つである。

 これらが重なった結果、中国は譲歩ができない状態に陥り、言葉では強硬姿勢を貫きながら、経済におけるダメージを最小限にするという「二層構造」の外交姿勢をとらざるを得なくなっている。

 高市答弁に中国が過剰に反応しているのは、本来なら大阪総領事の前言撤回と辞任で済ませる「譲歩」ができず、国内向けパフォーマンスとして怒りの演出をしなければならないからである。

 だが、そのために、日本側は対中投資に慎重にならざるをえなくなり、それは西側の対中包囲網の強化にもつながる。

 高市答弁に対する中国の反発は、日本側の政策変更が原因なのではなく、国際秩序が台湾を中心に動き始めたために起こった現象であり、その点を欠いての議論が実りあるものになるとは思えない。

 この対立は長期間にわたる可能性もあるが、日本としては、中国の「激怒」にいちいち細かに対応する必要はない。中国側の最低限の「体面」を保ち、かつ日米連携を深めながら、日本にとって最大の実利が得られるように戦略をとるべきだろう。

(評論家、翻訳家、千代田区議会議員 白川 司)