中国側の感情的反発に
拍車をかけた高市首相の行動

 高市首相の就任は、台湾で歓迎ムードの報道をもって受け止められた。台湾では、安倍晋三元首相が提唱した価値外交や対台湾協力路線が強い支持を受けており、高市首相はその継承者とみられている。台湾主要紙では「日本の対台湾政策は継続性を確保した」という趣旨が並んだ。

 高市政権の閣僚人事にもその姿勢が反映されている。台湾との議員外交を担ってきた金子恭之国交相、木原稔官房長官など、超党派組織の日華議員懇談会(通称:日華懇)の主要メンバーが複数起用されている。

 外交運営がいきなり中国中心から台湾中心にシフトすることはないだろうが、外交的シグナルとして「今後、日本は台湾へのコミットを増やしていく」という意味合いを含んでいるのは確かだろう。

 中国側から見れば、これは「日本政治において、これまで与党自民党の保守派の一部のみが表明してきた台湾支持が、日本政府のものになる」こと、つまり副次的要素に過ぎなかったものが、中国の台湾政策に直接関わるものになったというメッセージとして受け取られることとなった。

 これは、高市氏の首相就任に際して、慣例となっている祝電を習近平国家主席が送らなかったことにも現れている。多くのメディアがこれを「異例」と報じており、中国側も高市政権に対する警戒心を隠すことはなかった。

 安倍元首相の後継者として知られる高市首相がトランプ大統領と盛り上がっている様子を見て、中国側が「悪夢の安倍トランプ時代」を連想したことは想像に難くない。

 このような「メッセージ」の応酬は、台湾をめぐる外交において重要になる。

 台湾問題は習近平指導部の正統性と国内秩序を保つために必須の領域である。そのため、常に緊張し続ける習指導部は、日本が台湾を「国家」と扱ったときに、過剰に反応せざるをえない。

 そういう意味では、高市首相は習主席を「逆なで」する行為をすでにおこなっていた。それは、韓国で開催されたAPEC首脳会議において、高市首相は日中首脳会談後に台湾代表である林信義氏と約20分間会談し、その様子をSNSに公開したことだ。

 直前には習近平主席との「笑顔」での会談写真を投稿していたため、「外交序列の並置」と映る。中国側にとっては「台湾を国家扱いする」という最も警戒する行為であったわけである。

 このことが、中国側の感情的反発に拍車をかけることになり、習主席が激怒したと報じるところもあった。

 また、中国とのパイプをもっていた公明党が政権から離脱したことも、状況の変化を加速させる要因である。高市政権は、歴代政権がこれまで宿命的に抱えていた対中配慮の義務から解放された。とくに発信の自由度が増したことで、台湾政策において公にアメリカと歩調を合わせることが可能になったのである。

 これには、野党やマスコミが「政治と金」を連呼して抑え込んできた旧安倍派を、高市首相が政権の要となる職に起用したことも大きかった。中国にとって「政治と金」問題は日本が対中配慮を維持するための装置として働いていたのであるが、それを内側から進めていた公明党の離脱で、そのくさびが解かれたのである。

 石破茂政権は連立相手である公明党に配慮して、親中派として知られる岩屋毅氏や中谷元氏を起用し、立憲民主党にも国会の重要ポストを与えるなど、間接的な「対中配慮」を維持していた。

 だが、高市政権はそのような国内政治構造をドラスティックに変化させており、結果として中国の過剰な反応を誘発しつづけている。