EU市民の意識の変化は、2024年6月に行われた欧州議会選挙の結果にも如実に表れている。環境政策の推進を訴える「緑の党グループ(Greens/EFA)」の議席数が70から53へと減少し、第4勢力から第6勢力へと後退した一方で、グリーン・ディールに代表されるEUの規制強化に批判的な右派の「欧州保守改革(ECR)」や、極右の「欧州の愛国者(PfE)」(正確には選挙後に新会派として成立)といった会派が議席数を伸ばした。
フォン・デア・ライエン欧州委員長率いる中道会派の連立が辛うじて過半数を維持したものの、グリーン政策をこれまで通りのペースで推し進めることが困難になったことを示唆している。
EUの環境政策に
ドイツが「待った」
こうした「アンチ・グリーン」とも呼べる動きは、欧州議会だけでなく、加盟国レベルでも顕著になっている(より一般的には“Green backlash”、「環境政策の揺り戻し」と呼ばれる)。
2022年にイタリアの首相に就任したメローニ氏は右派ポピュリスト政党「イタリアの同胞」の党首であり、EUの環境政策には否定的な姿勢を示している。
フランスのマクロン大統領は、2017年の就任当初は環境規制の強化に積極的であったものの、極右政党「国民連合」の人気に押された支持率の低下などから近年は態度に変化が見られており、2025年5月にはEUの企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD、サプライチェーンを通したCO2排出量の開示などを義務化する規制)の廃止を求めている。
直近では、2025年10月にチェコで実施された下院選において、欧州グリーン・ディールを含むEU連携に懐疑的なポピュリズム政党「ANO」が勝利した。11月には極右の「自由と直接民主主義(SPD)」と右派の「モタリスト」との連立政権樹立で合意しており、新政権は「アンチ・グリーン」路線となる公算が大きい。
EUにおける「アンチ・グリーン」の潮流を決定づけたのが、EU最大の経済大国であり、政策決定に大きな影響力を持つドイツの反旗である。
EUは2023年に、2035年以降のガソリン車の新車販売を禁止する法案を可決した。しかし、EU閣僚理事会での採決直前、国内に巨大な自動車産業を抱えるドイツが「待った」をかけた。最終的には、全面禁止に対するドイツ政府の猛烈な反対により、二酸化炭素と再生可能エネルギー由来の水素を合成して作る「e-fuel(合成燃料)」を使用する車を販売禁止の例外として認めることとなった。
直近では、ドイツはEUガソリン車販売規制への反対姿勢を一段と強めている。きっかけは、2025年2月のドイツ連邦議会選挙で「キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)」が勝利し、CDUのフリードリヒ・メルツ党首が首相に就任したことだ。
そもそも、2023年のドイツの反対の背景には、当時野党第一党であったCDUの影響があった。メルツ氏は「政治が特定の技術に肩入れするのは間違ったやり方だ」と述べ、ガソリン車禁止への反対姿勢を鮮明にしていた。
2025年10月には、「e-fuel」以外の燃料を使用する自動車についても、2035年以降も販売を認めるべきと発言。電気自動車(EV)の普及が想定よりも遅れていることなどを理由に、ガソリン車の新車販売の「完全な打ち切りはあってはならない」とし、この政策を阻止すべく「あらゆる措置を講じる」と強硬な姿勢を示している。







