ヒットの裏側 マナーウェア・後編写真:ユニ・チャーム

この10年でペット用紙おむつ市場は5倍に拡大し、その9割をユニ・チャームが握るまでになった。前回記事では、「おむつ」を「マナーウェア(洋服)」へと発想転換し、市場そのものをつくり変えたマーケティングの舞台裏を追った。では、なぜそのポジションを他社が崩せないのか。今回の連載『ヒットの裏側』では前編に続き、胴回り1センチ刻みの採寸、1サイズで型紙200種類超、試作1000枚超という泥くさい試行錯誤を、十数年にわたって積み重ねてきた開発の現場に迫る。(ダイヤモンド編集部編集委員 清水理裕)

出発点は「2枚に1枚は漏れるおむつ」
腹巻き型の発明でようやくスタートラインに

 ユニ・チャームがペット用紙おむつ市場に参入したのは2001年。人間の赤ちゃん用おむつの技術を応用し、高齢で失禁が見られる犬向けのテープ型おむつを発売したのが始まりだ。

 だが、犬種ごとに体形が大きく異なるにもかかわらず、構造はあくまでベビー用おむつの延長線上。足の動きに引きずられておむつが後ろへずれ、特に男の子用(オス用)は生殖器が飛び出して漏れてしまう。「2枚に1枚は漏れる」と現場で言われていたほどで、この状況は10年近く続いていた。

 この難題に真正面から向き合ったのが、08年入社で、同社初のペットおむつ専任開発者となった小松原大介(現Global開発本部・第2商品開発部マネージャー)である。大学時代に足の悪い犬と暮らした経験から、「いつかこの子に合うおむつを作りたい」との思いでユニ・チャームに入社した人物だ。

 転機は、訪問調査で訪れた一軒の家庭だった。飼い主が市販のペットシートを犬のおなかにぐるりと巻き、洗濯ばさみで留めて“自作おむつ”として使っていたのである。

「このやり方を見た瞬間、『これだ』と思った。おしっこが出る部分だけを覆う“腹巻き”の発想なら、足の動きに引っ張られにくい」

 小松原はすぐに試作品づくりに着手。試行錯誤を重ね、11年に腹巻きタイプの「オス用おしっこオムツ」を発売した。前回記事で紹介した「マナーウェア」は、14年にこの技術を基盤として生まれた第2世代の商品である。

 しかし、開発の本当の苦労はここから始まった。腹巻き型という構造のめどは立ったものの、「どんな犬にもフィットし、嫌がられず、走り回っても漏れない」レベルに持っていくための格闘は、この後何年にもわたって続くことになる。