現実を「怪談」というフィクションとして捉える
ヘブンを演じるトミーさんは、よく研究なさっているなと思います。実際のヘルンさんを見たことがあるわけではありませんが、たたずまいはもちろん、その気性といいますか、決して優しいだけの男ではない強面(こわもて)なところも表現されていて、流石(さすが)にロックバンドFranKoを率いているだけのことはあるなあと敬服しています。
西田千太郎がモデルの錦織を演じる吉沢亮さんは、芝居を交わすたびに、その正直で真っすぐな姿勢に惹(ひ)き込まれてしまいます。錦織が抱える後ろめたさや引き裂かれるような思いは、実は影の主役というか、近現代の日本が抱えてきた歴史の闇を代弁しているようにも感じています。
――『ばけばけ』の見どころ・視聴者の方へのメッセージをお願いします。
『ばけばけ』の登場人物は、みんなが誰かを思いやっています。今、自分の権利や立場を主張してばかりで、相手を攻撃するようなことが増えているように感じることも少なくありませんが、価値観が変化していく中で、人にとって大切なものとは何かということを改めて問いかけている2人の物語であり、2人を取り巻く登場人物たちも葛藤しています。その答えは簡単には出せないものかもしれないけれど、現実を「怪談」というフィクションとして捉えることができれば、救われることもあると思います。
今回のテーマは、価値観の違う者同士がどうやったら一緒に共存できるのかということを諦めずに生きていきませんか? という問いかけだと思います。江藤を演じながら、役柄と自分自身という葛藤とも重ねて、常にそのことを問われ続けているように感じています。そのことを視聴者の方々とも共感できたらと思っています。
松江出身の俳優として、また江藤知事としても、視聴者の皆さんに古(いにしえ)よりの歴史の残る松江に興味を持っていただき、松江を訪れていただけたるようになったらうれしいですね。
文化系知性派俳優・佐野さんの『ばけばけ』評は端的で、これぞ決定版という感じである。
さて。佐野の語る価値観の違う者同士、トキとヘブンは目下、日本の文化を通して近づき始めている。
トキは、タエ(北川景子)に三味線を習っていて、「あなたずいぶんと上手になってきたわね」と褒められる。
お聞かせするお相手がいるから上達するのだとタエは鋭い。「どんなお相手に?」と聞くが、「いえ、私は」とトキは答えない。でも、日本好きのヘブンのために習い事を復活させたことを視聴者は知っている。
トキの上達を喜び、誰かいいお相手がいるのではと感じるタエは、実母の心情がわいているようにも見える。







