「サムガリ、ヤメタイ」「サムライ、ナリタイ」

 ヘブン宅、美しい椿(ツバキ)を生けた空間でトキは三味線を演奏する。それを聞くヘブンは夢心地。椿の生け花と三味線の音色。これ以上ないほどザッツ日本の光景に、ヘブンが英語でその良さを語るシーンに高まるオリエンタリズム感。

 ところが、リヨはトキに、お花、お茶、三味線などをやめてほしいと詰め寄る。自分の存在が霞むからと。

 トキは躊躇(ちゅうちょ)する。なぜなら、自分が提供する日本文化をヘブンが喜び学ぶことを通して、互いの距離が縮まっているような気がして、おもしろくなっていたからだ。

 リヨの願いを聞いて花を片付けようとも考えたが、できずにいると、ヘブンが学校で倒れて人力車で担ぎ込まれてきた。

 夏は長く高温多湿で、冬は短く穏やかなニューオーリンズに住んでいたヘブンには信じがたい寒さだったのだろう。この年の松江はいつになく寒かった。

 余談だが、そんな寒いなか、トキの半襟が肌色で寒そうに見える。実際は綿が入って温かいのだと思うのだが……。

「サムライ」と「サムガリ」を間違えるヘブン。

「サムガリ、ヤメタイ」「サムライ、ナリタイ」とうなされる。

 ジャーナリストとしてもっといろんな国に行きたかったのにここが最後の地と絶望して……。

 モデルである小泉八雲はかなりの日本びいきと聞いていたが、当初、日本は通過点に過ぎず、それがいつの間にか、定住したい地に変わったのだろうか。何がヘブンの心を決めさせたのか、この先が気になる。

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