フレンチシェフ・三國清三が、予約の取れない名店「オテル・ドゥ・ミクニ」を閉店させてまで、70代にして「来世に持ち越さず今叶える」ことを決めた夢とは?写真:キッチンミノル

フランスで数々の三つ星レストランを渡り歩き、帰国後はグランメゾン「オテル・ドゥ・ミクニ」のオーナーとして名を馳せたフランス料理シェフ・三國清三(みくに・きよみ)氏。三国氏は2022年、37年続けたオテル・ドゥ・ミクニを閉店した。そして2025年、三国氏が新しくカウンター8席のみの店「三國」を開いた理由、そして70代になって新たに挑戦する「本当にやりたいこと」とは?※本稿は、三國清三『三國、燃え尽きるまで厨房に立つ』(扶桑社)の一部を抜粋・編集したものです。

「オテル・ドゥ・ミクニ」
37年目に閉店を決めた経緯

 2022年12月、僕は37年の「オテル・ドゥ・ミクニ」の歴史に一区切りをつけ、店を閉じた。

 僕はもともと、店はここ1軒だけでいいと思っていたが、時代の流れの中でいくつも店をもち、スタッフの数も増えた。そこに後悔はまったくないし、人に恵まれたからこそ成し遂げることができたと、本当にありがたく思っている。

 ただ、僕には自分の中でずっともち続けている夢があった。

 それは、1から10まですべて自分でやるお店をもつこと。

 納得のいく食材を自分で仕入れ、食材の状態とお客様の要望を聞きながら、スポンタネ(即興)で料理を作る。それこそが自分でやりたい店のスタイルだった。ここで作る料理は、お客様のための料理であると同時に、自分のための料理だ。僕は自分のために料理を作りたかった。

 でも、店の経営や若手の育成を考えれば、こんなスタイルは無理に決まっている。

 大きく広がっていくビジネスに経営者としてかかわりながら、僕は半ばあきらめて、この夢は来世まで持ち越しだなあと思っていたのだ。

 ところがそこへコロナ禍がやってきた。