人生の第2章の舞台
「三國」をオープン

 2025年9月、僕は四ツ谷の地にカウンター8席だけの店「三國」をオープンする。ここが僕の人生の第2章の舞台だ。

 アシスタントはおくけれども、基本は僕が料理を作り、僕がおもてなしをする。

 メニューも値段も決めない。朝、豊洲でその日いちばんの素材を仕入れてきて、たとえば「今日はおいしい甘鯛があります。蒸しますか?焼きますか?」と、それをお客さんに見せながら相談する。まさに「スポンタネ(即席)料理」である。

 野菜は信頼できる農家から直接分けてもらう。

 そもそも農作物の多くは太陽に向かって伸びるから、太陽が東から西へと動けばそれに合わせてキュウリは曲がるし、トマトは日が当たるところだけが赤くなる。自然界のものはすべて不揃いなのだ。

 ところが市場に出回るのは、太陽の光ではなく均一な光を当てた結果、形や色がきれいに揃った規格品ばかりである。

 また、果物は、木につけたままたっぷり養分を吸い込ませて熟成させることでおいしくなるのだが、流通に時間がかかるため、熟す前に早もぎしてしまう。木で熟した本当においしい果物は市場にはまず出てこないのだ。

 おいしいものは、流通にはのらないものの中にある。

 僕は漁師の父と農業を営む母を手伝う日々をとおして、自然によって育まれる本質的なおいしさにたどり着くことができた。

 だからこそ「三國」では、流通にのらない食材を用い、そのおいしさを最大限に引き出して、究極の一皿を仕上げたい。それが70代からの三國の料理だ。

「これ、見てくれは悪いけど、味は最高ですよ」

「この豚は、ストレスのない環境で育てられているから、ちょっと硬いけどめちゃくちゃ味わい深い」……。

 手に入った素材を前に、カウンターに座ったお客さんとこんな話をしている自分が目に浮かぶ。これこそ僕がやりたかったことなのだ。

人生100年時代に
70代をどう生きるか

 確かに多くのシェフが60代のうちに厨房を去る。60代という料理人としてピークの時期にリタイヤして、そのあとどう生きるのか。これまで築いてきたキャリアをどう終わらせるのか、料理人も考えないといけない時代になっているのではないだろうか。