だから僕は、普通なら引退する年齢の70代で新しい挑戦をすることにした。前例がないからこそ、ロールモデルがないからこそ、自分でやってみようと思ったのだ。

「70歳からでもこういう仕事ができる」という道しるべを、後輩に示すことができれば本望である。

 もちろん、75歳で体がガタガタになっちゃうかもしれない。あるいは、80歳まで行くのかもしれない。これから始まる人生の第2章はすべてが未知の世界だから、自分にワクワクドキドキだ。

 体力はあるに越したことがないから、体重を落として体をつくり直すため、昨年から毎週ジム通いを続けてきた。修業中に厨房で覚えたフランス語を一から学ぶために語学学校にも通っている。

 第2章が何歳まで続くのかはわからないけれど、料理人として悔いのない形で終わりたい、燃え尽きたと思えるその日まで「三國」の厨房に立っていたい、と思うのだ。

 自分でもちょっと驚いているのだが、70代になったら、故郷増毛(編集部注/北海道の増毛町)が恋しくなり、帰りたいとさえ思うようになってきた。若い頃はなるべく近づかないようにしていたのに、これが年を重ねるということなのか。

 増毛では来年、ラーメンとカレーの店を開店する予定だ。また、実家の前の浜と浜に隣接する土地も購入した。海辺にレストラン「オテル・ドゥ・ミクニ増毛舎熊」を建て、隣接地は畑にし、食材として利用する野菜を栽培する。

 75歳くらいからは、夏だけは増毛で「オテル・ドゥ・ミクニ増毛舎熊」をやり、それ以外は四ツ谷で「三國」をやる、という感じにできたらいいなと考えている。

 70代から始まる人生の第2章を、思う存分楽しみたいと思う。