そして、語り手が言葉を発する瞬間と、聞き手がその言葉を理解した瞬間の時間遅延を調整したところ、まるで両者の脳が互いを理解し合うために協力しているかのような、同期的な神経結合が見られた。
次に、語り手の話を加工して意味不明な音の集まりに変えると、同期化は消失した。語り手が、ロシア語を介さない聞き手にロシア語で話した時も、神経結合は見られなかった。
また、語り手と聞き手が英語で意思疎通を図った場合、神経結合の範囲が広いほど、聞き手の理解度が高かった――個々の単語だけでなく、全体の意味もよく理解していた。
共同活動は脳内麻薬を分泌させ
ストレスホルモンも抑制する
なぜ人間は同期化された社会的やりとりを好むのだろう?
音楽やダンスなどの共同活動をすると、脳内で「エンドルフィン」の放出が促される。エンドルフィンは、「脳内麻薬」とも呼ばれる脳の快楽物質で、活動を集団で行うことによって放出が促進される(注9)。
また、合唱などの共同活動には、ストレスホルモンのコルチゾールを抑制する効果もある(注10)。
人は共同活動をしている間、他者をより身近に、より温かく感じ、より強くつながっていると感じるが、その一方で、自分自身に対する感じ方も変わる。
同期化の影響の1つは、自分と相手の境界がぼやけ、集団との一体感が生まれることだ。
同期化に関する研究のメタ分析によって、このシフトには4つのメリットがあることが示された(注11)。
第1に、同期化は他者を思いやる向社会的行動を促す。第2に、連帯感を強め、第3に他者の考えへの関心を高め、第4に心の健康を促す効果がある。
(注9)Tarr, B., Launay, J. and Dunbar, R. I. M. (2014), ‘Music and social bonding:“self-other” merging and the neurohormonal mechanisms’, Frontiers in Psychology, 5 , 1096, https://doi.org/10.3389/fpsyg.2014.01096(アクセス確認:2023年9月28日)
(注10)Kreutz, G ., Bongard, S ., Rohrmann, S . et al. (2004), ‘Effects of choir singing or listening on secretory immunoglobulin A, cortisol, and emotional state’, Journal of Behavioral Medicine, 27(6), pp.623-35.
(注11)Mogan, R., Fischer, R. and Bulbulia, J. A. (2017), ‘To be in synchrony or not? A meta-analysis of synchrony’s effects on behavior, perception, cognition and affect’, Journal of Experimental Social Psychology, 72, pp. 13-20.







