「がんも、症状だけでなく、TNMを評価して病気の広がりやステージを示して、治療法を決めますよね。アルツハイマー病も同じです。症状がなくても、脳内ではAβがたまるなど病理がゆっくり進行しています。ただ、最終的な診断は、脳の変化(病理学的診断)と症状(臨床的診断)を総合的に判断して医師が行うことが重要です」
誤診を減らす一手になるか
将来保険診療になる可能性は?
日本では23年12月、Aβの蓄積を確認することを目的に、一定条件下で、PET検査とCSF検査を保険診療で行えるようになりました。これは、早期アルツハイマー病(アルツハイマー病を原因とした軽度の認知症、その前段階にある軽度認知障害〈MCI〉)が疑われ、抗Aβ抗体薬の使用を希望する人に対してのみです。
認知症には、アルツハイマー病の他に、レビー小体型認知症、血
認知症の診断を進める際、問診、診察、身体検査、神経心理学的検査、さらにCT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像化装置)、脳の機能低下の分布を調べる「脳血流SPECT検査」などの画像検査を行います。
ただ、脳内の状況を客観的に捉えられないと診断は難しいのが現状です。死後に脳を解析した結果、アルツハイマー病と診断された患者のうち約22%が実際には病理基準を満たさなかったとする米国の研究もあります。そのため、手軽な血液バイオマーカー検査は、誤診を減らす「効果」があるとも考えられます。
Aβの蓄積は、レビー小体型認知症の人などの脳内でも確認されるため、大前提として総合的な診断が必要です。その上で、より診断の精度を高め、誤診を防ぐためにも、認知症が疑われる人で抗Aβ抗体薬の治療を希望しなくても、将来的に保険診療で血液バイオマーカー検査を行う可能性はあるのでしょうか。
「診断・治療体制が整い、精度の高い検査が普及すれば、無症候期にある人の一部を含めて、保険診療でカバーする価値が生じる可能性は十分にあるでしょう」
(監修/東京大学医学部附属病院特任教授、日本認知症学会前理事長 岩坪 威)







