奥多摩駅の標高が343メートルに対して終点の水根が約510メートルだから標高差は約167メートルもあり、計算すれば平均勾配は24.9パーミル(1000メートル進んで24.9メートルの高低差を生じる勾配)に及ぶ。

 ふつう幹線鉄道では最急勾配が25パーミルに抑えられているので、その勾配を全区間に適用してギリギリ上れるほどの急峻な路線である。調べてみると最急勾配は30パーミルに設定されていたようだ。

鉄道史の表舞台から消えた
「奥多摩電気鉄道」

 幸いなことに、この線路に沿って青梅街道の旧道が「奥多摩むかし道」というハイキングコースとして整備されているので、そちらを歩きつつ線路を遙拝したり俯瞰し、少しはホンモノの線路も歩いてみよう。しかも終点から起点に戻るコースである。理由は簡単で、こちらの方が楽だから。

 青梅線の奥多摩駅から小河内ダム方面のバスに乗って、ダム直下の水根で降りた。ここが終点・水根積卸場の跡地最寄りの停留所だ。

 国道411号を通ったことがある方は、小河内ダムの手前で「鉄橋」をくぐるので、「こんな所になぜ鉄道が?」と不思議に思った経験があるかもしれない。これが専用鉄道の跨道橋(第二水根橋梁)の廃墟である。

第二水根橋梁第二水根橋梁。小河内線水根積卸場(水根)のすぐ手前にある跨道橋。ガーダー(橋桁)が残っている(同書より転載)。

 そのすぐ西側はかつてセメントや砂利を大量に積み卸ししていた場所であるが草が茂り、「立入禁止 奥多摩工業株式会社」の看板が見張っている。

 この会社は今でこそ石灰の採掘と関連製品を販売する会社だが、元は奥多摩電気鉄道と称した。現青梅線の御嶽~氷川間を敷設した会社で、開通の直前に青梅電気鉄道(立川~御嶽)とともに国が買収して国鉄青梅線となっているので、鉄道史の表舞台には立っていない。