直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、“歴史小説マニア”の視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身おすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

【直木賞作家が教える】「古地図散歩」の究極の愉しみ方・ベスト1Photo: Adobe Stock

「古地図を歩く」
という楽しみ方

御朱印集めに続いて、私がこれからブームになると予想しているのが「古地図を歩く」という旅の仕方です。

たとえば、京都府の南部、今の京都市伏見区南部から宇治市西部、久御山町の北東部にかけての一帯に、かつて「巨椋池」という巨大な湖が存在していました。

大きさは周囲約16キロで、面積は約800ヘクタール。甲子園球場の約200倍の広さを持ち、京都府で一番大きかった湖です。

古地図歩きに最適な街

この巨椋池は豊かな漁場でもあり、明治期には景勝地としても賑わっていたのですが、昭和に入り水質汚染の問題が深刻化。マラリアの発生源にもなったため、干拓により完全に埋め立てられてしまいました。

古地図や過去の写真で巨椋池を見ると、その巨大さに驚きます。古地図を見ながら巨椋池の跡が、今どうなっているかを歩いて調べるのも楽しそうです。

特に古地図歩きに最適なのが東京です。江戸の古地図はたくさん残されていますし、今の時代は、江戸や京都の古地図がスマホのアプリにもなっています。ボタン一つで簡単に過去と現在の地図を対照できるので便利です。

古地図歩きの
基本的な愉しみ方

しかもアプリには、史跡の解説も充実しているので「ここで大久保利通が暗殺されたのか」などとわかるようになっています。

旅行中の人は散策しながら、地元の人はウォーキングしながら、「今日は『鬼平犯科帳』の長谷川平蔵の屋敷跡を見に行こう」などと小説と地図アプリを組み合わせて楽しむのもいいですし、「この店って当時から同じ場所にある!」と発見するのも楽しいです。

ちなみに、東京で江戸時代から同じ場所で営業しているデパートは「日本橋三越本店」「松坂屋上野店」の2店です。歩いて実際に建物を見ると、新鮮な感動があるはずです。

古地図歩きの
究極の遊び方

古地図歩きの究極の遊び方は、東海道や中山道の宿場町を踏破するウォーキングの旅かもしれません。

別に一気に歩き通す必要はなく、休暇のたびにお遍路感覚で少しずつゴールを目指すのも面白そうです。

「『真田太平記』に出てきた忍びの者は、この距離をこんな短時間で踏破したんだ!」などと楽しめること請け合いです。

「体験型VR」を愉しむ

新しい技術を使って楽しむという意味では、最近は観光の分野でVRを活用する自治体が増えつつあります。VR(Virtual Reality)は仮想現実とも呼ばれ、映像を視聴することで、あたかもその空間にいるような感覚が得られる技術です。

自宅にいながらVRで観光気分を味わえるという使い方もありますが、リアル観光と組み合わせた体験型VRもあります。

たとえば、滋賀県の国宝・彦根城では、VRを使って弓矢や鉄砲で攻撃してくる敵を倒すといった城攻めゲームを体験できます。

旅先で歴史を学ぶ環境

何もない草原や山を見て、かつての戦いを想像する。これも歴史旅の醍醐味ですが、初心者にはちょっとハードルが高いのもたしかです。

今は各自治体が史跡を活用した観光振興に力を入れているので、VRの活用は非常によいとり組みだと思っています。このように、旅先で歴史を学ぶ環境は整いつつあります。

※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。