幼い頃は田んぼだったのに、今や住宅が立ち並ぶ土地に激変……。こうした地形の変化は高度経済成長期に著しいが、実はそれ以上に変化した時代がある。「地図バカ」を自称する地図研究家が、地形図のおもしろさを説く。本稿は、今尾恵介『地図バカ 地図好きの地図好きによる地図好きのための本』(中公新書ラクレ)の一部を抜粋・編集したものです。
雑木林や丘陵地が住宅地へ
ザリガニやカエルはいずこ
長きにわたって地形図を集めていると、たとえば同じ地域の10年前の様子との変貌にしばしば驚かされる。
私は子供の頃、横浜市西郊のとりわけ人口が急増していたエリアに住んでいたこともあり、雑木林や丘陵地が次々とヒナ壇状の住宅地と化していくのは当たり前の光景だった。中学を卒業する時の1学年は14クラスに達しており、昨今の重要課題である人口減少など想像もつかないような別世界であった。
子供時代を過ごした家のすぐ近くに田んぼがあった。その脇を流れる小川でよくザリガニを捕ったが、畔道を一歩踏み出すたびに何匹ものアマガエルが跳んで水路へ逃げるのは日常風景で、たまに小さなサワガニや巨大な青大将などとも遭遇したものである。
思えば、生態系的には実に豊饒な一角であったが、ここも大人になって再訪した時には跡形もなく、高く盛り土した上にマンションが建っていた。あのザリガニたちはどこへ行ってしまったのだろう。
新旧の地形図でこの場所を比較すれば、田んぼの記号から黒い長方形の建物記号に変わっただけであるが、このような変化は全国各地で起きていたはずである。