「どこかに行ってしまいたい」。仕事からも、絶え間なく携帯に送られるメッセージからも解放され、ここではないどこかに逃亡したい。そう思うことはないだろうか。しかし今の時代、自由に旅行することさえままならない。そんなときには地図をなぞって旅気分を味わうのはどうだろう。この思いを実現すべく、これまでありそうでなかった本が刊行される。『地図なぞり』だ。日本には魅力的な地形がたくさんある。そうした地形をお気に入りのペンでなぞってみると、驚くほどの没入感ここではないどこかを旅する感覚を味わえる。本書を推薦する養老孟司さんも「なぞるだけ なのになぜだか ハマってしまう」とコメントを寄せる。本連載では特別に、この本から一部を紹介する。

地図をなぞって旅をしようPhoto: Adobe Stock

航路をなぞって旅をする

「日本人も欧米並みの長い夏休みを取るべきだ。2週間ぐらい休んでも仕事が回るように仕組みを作ることが大事。長い休みがとれる職場の心理的安全性を確保して……」。

……分かる。そのとおりだと思う。分かっているのだが、長い休みをとるのは勇気がいる。長い休みをとって家にいても落ち着かないし、会社支給の携帯をちらちら見てしまう。

だから旅は、すぐ帰れない場所に行くべきだ。会社の携帯の待受に通知があってもどうもできない場所に行くのだ。

海外に行けばいいのだが、いまは自由に行き来できない。そこで紹介したいのが国内ですぐに帰ってこられない場所だ。

「小笠原諸島」「トカラ列島」である。

会社を忘れる24時間の船旅

小笠原諸島の父島まで、東京の竹芝桟橋からフェリーで24時間。しかも週に1便の就航である。

行って帰ってくるだけでも最短5泊6日。帰りのフェリーを1本遅らせると12泊13日だ。もう会社の住所すら忘れるだろう。

地図をなぞって旅をしよう

『地図なぞり』にはこの小笠原航路も収録してある。簡単なまっすぐな線だが、あえてこのまっすぐな線をフェリーに乗った気分で、ジリジリとできるだけゆっくりなぞって欲しい。

地図をなぞって旅をしよう薄いブルーの線をお気に入りのペンでゆっくりとなぞる。
『地図なぞり』より

1センチ1秒ほどのスピードだろうか。一筆書きにこだわらず、たまにはペンを離して一息ついて。

やりやすい姿勢で、自分のペースでなぞっていこう。

おすすめのペンは?

なぞるときに使うペンは、水性かゲルインクのボールペンか、サインペンをすすめたい。太さは0.5ミリ程度、スムーズな書き味のものよりも、手応えのあるもののほうが楽しめると思う。

私は「パイロットのVコーン」、ぺんてるの水性ペン「トラディオ・プラマン」を愛用している。

テストもすべてこのペンで行った。

ペンは好みの問題なので、どんなものを使っても構わない。しかし油性ペンは裏写りしてしまうのでおすすめしない。

太さが1ミリ以上のペンもなぞる線より太くなるので避けたほうが良いだろう。

こうしてなぞりながら、かんたんには帰ってこられない、小笠原の旅へのモチベーションをあげていくのだ。