優秀な人がジョブローテーションするとプラスになるが…
イオン草創期に、すでに「経営人事」「戦略人事」の概念を確立していた小嶋氏の先見性は、例えば、現代の人事経済学におけるジョブローテーションの有効性を検証した実証研究によって裏付けられている(近年、多くのジョブローテーションの研究が進んでいるが、概ね、ジョブローテーションの有効性を示すものが多い)。
2018年に発表された「ジョブローテーションと従業員のパフォーマンス — 金融サービス業界における縦断的研究からの証拠」という論文(Patrick Kampkötter、Christine Harbring、Dirk Sliwka 著)は、ドイツの金融サービス業界のデータを分析し、ローテーションがその後のパフォーマンスに与える影響を調査した。
論文の結論部分から引用する。
《ローテーションを経験した者は、同等のポジションでローテーションしなかった他の従業員と比較して、その後の年に高いパフォーマンスを達成する。興味深いことに、この効果はハイパフォーマーによってもたらされており、ローパフォーマーについては、ジョブローテーションと将来のパフォーマンスとの間に有意な関係は見られないことが分かった》
《この結果は、企業がジョブローテーションプログラムをハイパフォーマーに集中させるべきであり、ローパフォーマーを異なる部署にローテーションさせてもパフォーマンスの向上を期待すべきではないことを示唆する》
つまり、この実証データは、特に能力の高い人材に対して、ジョブローテーションがその後の成果に強いプラスの影響を与えることを示している。
小嶋氏が秘書という重要な役職に「有能な若手」を選び、それを「錬成の場」として機能させた行動は、ローテーションの持つ能力開発効果を最大化するという、極めて合理的な戦略であったと評価できる。







