ホテルの直前キャンセルは満額請求――。そんな“業界の常識”に、大手としては異例の見直しを行ったのが星野リゾートだ。2025年10月、同社は新予約システム「FleBOL(フレボル)」導入に伴い、直前キャンセル料の大幅な緩和に踏み切った。その背景にあるのは、代表・星野佳路氏が監訳を務めたサービス設計の名著『熱狂的ファンのつくり方〈新版〉1分間顧客サービス』にも書かれている「沈黙の背後に耳を傾ける」という姿勢だった。星野リゾートはなぜ今、その一歩を踏み出したのか――。星野氏に話を聞いた。(取材執筆:前田浩弥、構成:ダイヤモンド社書籍編集局)
星野リゾート代表・星野佳路氏
「沈黙の背後」に耳を傾ける
――今回の改定では、直前キャンセルが増えるリスクもあると思います。改定の背景について教えていただけますか?
星野佳路氏(以下、星野) まず申し上げたいのは、これは確かな計算根拠をもとに「リスクよりもリターンのほうが大きいだろう」という判断を下したものではないということです。
キャンセル料には、大きく2つの役割があります。ひとつは「かかったコストの回収」、もうひとつは「空予約の防止」です。
「空予約」とは、「そもそも泊まる可能性は低いのになされている予約」のことです。旅行業界には、さまざまな理由によって、この「空予約」が一定数存在します。例えば、桜のシーズンに土日ごとに連続して3つの予約を取っておいて、その年の桜の開花状況を見て2つはキャンセルする前提で予約だけ確保するケースです。これは宿泊施設側にとっては大きな機会損失が生まれてしまいます。
100%キャンセル料をいただくという制度のおかげで、「空予約」による直前キャンセルは減りました。しかしその一方で、「空予約」を排除するための仕組みが、「善意の予約者」をも痛めている現状があります。本当は宿泊したかったのに、やむを得ない事情によって直前にキャンセルするしかない状況というのは、誰にでも起こり得ます。
事前に了承いただいているルールですから、そのような「善意の予約者」も、直前でキャンセルした場合は、100%のキャンセル料を払ってくださいます。しかし払ってくださった後の、星野リゾートに対するロイヤリティはどうなっているでしょうか。「日を改めて、また泊まりにいこう」と思っていただけるでしょうか。私たちが気にしているのは、そこなのです。
――たしかに、急な予定や体調不良でキャンセルせざるを得ない場合、100%負担には違和感が残ります。
星野 私が監訳を務めたサービス設計の名著『熱狂的ファンのつくり方〈新版〉1分間顧客サービス』には、「沈黙の背後に耳を傾ける」という項目があり、次のように書かれています。
――『熱狂的ファンのつくり方』(p.94)
キャンセル料を支払うとき、顧客の側としては確かに、「キャンセルしたんだから、かかった分のコストを支払うのは仕方ないよね」と感じています。ただ、その一方で、「そのコストって、宿泊費の100%ではないよね」とも感じているはずです。
しかし、表立って「『宿泊費の100%』というキャンセル料は負担が大きすぎる」と本音を伝えてくれる顧客は多くありません。その「静けさ」を、「不満は一切ないのだ」と履き違えると、顧客はひとり、またひとりと静かに去っていくでしょう。
それを防ぐため、「善意の予約者」に対しては、「お互いに納得のできるキャンセル料」を設定しなければならない。私はかねてから、そう考えてきました。今回、それを実行に移したということです。
「日程変更」で、キャンセル料がかからず再予約可
――星野リゾートにとっては、「直前のキャンセル料100%」を維持することで顧客のロイヤリティを毀損しうる可能性があり続けるほうが、リスクが大きいという判断なのですね。
星野 そういうことです。星野リゾートは今、リピーターの数がとても多く、全国の星野リゾートをめぐってくれるような「熱狂的なファン」も数多くいらっしゃいます。星野リゾートの将来のためには、そのような方々のロイヤリティや気持ちを重視することが大事なのではないかと、私は考えています。
何より、「善意の予約者」の直前キャンセルによって宿泊費の100%のキャンセル料をいただくことを、私たち自身、あまり心地いいとは思っていませんでした。仮に直前キャンセルになったとしても、もっと「いい塩梅の痛み分け」があるはずで、その「いい塩梅の痛み分け」こそがブランドへのロイヤリティにつながると考えていたのです。
「次につながる」という意味では、30%のキャンセル料すらかからない方法も、「フレボル」ではご提案できるようになりました。それが「日程変更」です。宿泊日から90日以内であれば3回まで変更可能で、この場合はキャンセル料がかかりません(ただし変更の際には事務手数料1000円が必要)。チェックイン日の午前9時まで、変更を受け付けています。
「善意の予約者」による直前キャンセルとは、言い換えれば、「ここに行きたい!と心から願って予約しながらも、やむを得ない理由で、予約していた日程では行けなくなった」ということです。それならばぜひ、日程を変更して、来れるタイミングで来ていただきたい。キャンセル料の値下げだけでなく、「日程変更」もまた、私たちにとって大事なサービスだと考えています。
(本稿は、『熱狂的ファンのつくり方』(ケン・ブランチャード/シェルドン・ボウルズ著、星野佳路監訳)に関連した書下ろし記事です)





