今年も初夏にN-ONE RSの6速マニュアル車で東京~鹿児島を走った。クラッチを締結していれば、エンジンから駆動輪まで常にダイレクトにパワーが伝わるMT車の気持ち良さは格別。ターボエンジンのパワーも十分、高い航続力が生む利便性も素晴らしいものだった。

 東京を出発後、685.8km走行後の兵庫・豊岡で給油。そこから真夜中の山陰道を疾走して558.6km地点の福岡・田川で給油。田川を出発後、317.5kmで鹿児島に到着。近年はBEVも性能的に長足の進歩を遂げているが、さすがにこんな芸当は無理だ。

ホンダ「N-ONE RS」ホンダの軽自動車「N-ONE RS」。6速MTと良いチューニングの足まわりのコンビネーションは爽快。東京~鹿児島を中継給油2回で走り抜く航続性能も魅力だった Photo by K.I.

 価格が安く、長距離の移動力もあり、存外快適で、おまけにドライビングも軽快で楽しい。この特質は、ピーク時には200万台近く売れていた欧州Aセグメントと重なる。

「経済弱者が交通移動する権利」を守れ

 小型車にはシティカーのイメージが強いが、それは役割の片面に過ぎない。もうひとつの重要な役割は、「経済弱者が交通移動する権利」を担保することだ。

 欧州ではバカンスに遠出をする文化がある。低所得者層もクルマが小さいからといって近所ばかりを走り回るのではなく、休暇になると小型なマイカーで国境を越えるようなドライブを平然とやる。決してラグジュアリーな旅ではないが、「太陽は誰にでも平等に降り注ぎ、花は誰にでも微笑んでくれる」というヤツである。

 現在、欧州の複数メーカーが価格を抑えたミニカークラスのBEVを準備中だが、バッテリー容量の制約から航続力は低く、急速充電受け入れ性も低い。それらはシティカーとしては威力を発揮できても、庶民の移動文化を守る能力はない。