出社回帰について社員側の不満は先に述べた通りですが、一方の会社側も「組織の一体感を強化したい」「情報漏洩のリスクがある」「出社している社員の負担が増え公平性に欠ける」などテレワークへの課題を感じています。
前提として、会社には業務命令として出社を命じる権利があります。社員は労働契約上、出社に応じる義務があります。
ただし、就業規則や雇用契約書に「どのように勤務場所が明記されているか」で解釈は変わります。「勤務場所は会社が指定する場所」と記載されていれば、会社の裁量で出社命令を出すことは可能です。
一方、雇用契約時の条件に「テレワーク勤務を前提」と明記されている場合や、テレワーク勤務を前提とした働き方が定着していた場合は、異なります。
会社側は、週5フル出社を命じることが「実質的な労働条件の変更」とみなされる恐れがあります。一方的な出社命令は、「労働条件の不利益変更」に該当する可能性があります。
労働契約法第9条で、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と定めています。
「在宅勤務を前提に採用された社員」や「家庭の事情を考慮してテレワークを前提に働いている社員」に対して、急に週5日フル出社を命じることは法的リスクを伴います。
田中さんは家族の介護を理由にテレワークをしています。就業規則や雇用契約書で定められている事項も重要ですが、会社側が一方的に週5フル出社を命じることは、田中さんに甚大な影響を及ぼすでしょう。
会社側は、「社長命令だから」などと短絡的に制度を変えるのではなく、まず、社員が働く環境の把握に努めたいものです。そして一律に考えるのではなく、「全社員に週5フル出社が必要なのか」をよく検討したうえで、必要があれば段階的に出社日を増やすなど「移行期間」を設けることが望まれます。
また、田中さんの了解を得られるのであれば、田中さんの家庭事情を周囲へ適切に共有しましょう。これにより、「田中さんだけ特別扱いされている」といった職場の誤解が生じるダメージを避けられるでしょう。







