現場で起きがちな混乱とリスク例
ルール変更を円滑に行うためには?

 テレワークを推奨していた職場が、いきなり出社回帰すると、社員に多大なストレスを与えることになります。特に子育てや介護を行う社員にとって、テレワークは単なる勤務形態ではなく生活設計の一部になっています。

 実際に出社回帰した企業の社員からは、「朝5時起きに逆戻り」「通勤で疲れて業務効率が落ちる」「集中できる時間が減った」といった副作用も見られます。こうなると、組織を良くするどころか優秀な人材の離反を引き起こす可能性すらあります。つまり、出社回帰が人材の定着に関わる新たな課題を引き起こすのです。

 出社回帰を円滑に行うためには、以下の3つを意識すると良いでしょう。

(1)現行ルールを確認し、整合性を取る
 まず、「就業規則」「テレワーク規程」「雇用契約書」において、勤務場所をどこまで会社が決定できるのか、出社・テレワークの割合をどのように定めているか確認します。必要に応じて、労使協議や就業規則等を改定するなど手続きを踏むことが重要です。

(2)出社が必要な理由を明確に説明する
 出社回帰を命令ではなく「目的」として伝えることがポイントです。「リアルでの協働を促したい」「チーム連携の質向上」「新人のOJTを強化したい」など、出社の意義を経営メッセージとして発信することで、社員の理解を得やすくなります。

 会社の説明不足は、現場の不満を増幅させ、SNSなどを通じて炎上につながるリスクもあります。人事・労務担当者は、命令ではなく「説明によるコミュニケーション」を心掛けましょう。

(3)負担軽減策を提示する
 通勤再開に伴う負担を緩和するために、「フレックスタイム制度・時差出勤の活用」「段階的に実施する」「テレワークと出社のハイブリッド勤務を残す」といった配慮を示すことで、社員の納得感が大きく変わります。また、育児・介護といった個別事情にも柔軟かつ丁寧に対応することが重要です。

 テレワークからフル出社への転換は、紙の上では単なる「勤務場所の変更」かもしれません。確かに会社には「出社を命じる権利」はありますが、法的に問題ないかだけでなく、「現場が納得できるか」が重要です。納得してもらう努力を怠ると、トラブルだけでなく、会社への信頼も失います。

「週5フル出社」を命じることは法律上、必ずしも違法ではありません。しかし、「社員の理解」なしに円滑な出社回帰は実現できません。会社と社員のコミュニケーションが欠かせないのです。

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