体温を下げないために
見えない工夫をこらす選手たち

 寒暖差は、パフォーマンスにどのように影響するのだろうか。岡崎教授はこう語る。

「たとえば、小田原が気温5度で最高到達地点が0度だとします。体感は風の影響も受けますので。風が吹いている場合だとさらに体感が下がるので、その場合、15度くらいの温度差を感じるものと思います。細身で筋肉量が低い選手の場合、体温が下がる可能性が高くなりますね。

 寒さの影響で予定のペースよりもダウンすると、筋肉でつくられるエネルギー量が減るので、思いのほか体温が上がらず、低体温症気味になってしまう。そうなると、筋肉の収縮をコーディネイトできなくなり、うまく走れなくなります。寒暖差にしっかりと対応していくことは非常に重要です」

 箱根は、山だけに天候が変わりやすく、小田原が曇りでも上っていくうちに風雨にさらされるケースが多々ある。雨でからだが濡れている場合はさらに体温が下ってしまう可能性がある。

 その場合、体にクリームを塗ったり、ゼッケンを食品用ラップフィルムで覆って腹部を冷やさないようにしたり、ランシャツではなく、Tシャツにアームウォーマーを着用してウェア対策をしたりするなど、寒さ対策が必要になる。

 そうした対応をしっかり取るために、山の情報取得による事前準備が重要になってくる。ここを軽視すると、山の上で痛い目にあうことになる。

「山の神」に共通する極意は
「自分のリズムで山を上る」

 スタートすると、箱根湯本まで緩い坂が始まる。

 調子がいいとき、悪いときがあるが、リズムを刻んでいくなかでは、「あまりスピードを上下させないほうがいい」と今井正人(編集部注/順天堂大学。2005年の第81回箱根駅伝で5区を走り、史上最多の11人抜きを達成)は言う。

「最初は、突っ込まないこと。それが大前提です。自分のリズムをつくり、それを崩さないで上っていく。リズムというのは、平地のリズムをどこまで刻めるかということです。うまくいかない、リズムがうまく取れないときは、声援が途切れたときや大平台から宮ノ下に行くまでの途中のなだらかな坂で自分の呼吸や足音を聞いて、リズムを修正していきます」