神野大地(編集部注/青山学院大学。2015年の第91回箱根駅伝で5区を走り、区間新記録を達成)も自分のリズムの重要性を語る。

「上りで人と走ったほうがいいのは、最初の数キロメートルだけです。坂で人のリズムに合わせてしまうと、途中で自分の閾値を超えることがあるんです。限界を超えると落ちてしまう。だから、人にリズムを合わせず、自分のリズムで上ったほうがいいんです」

 なぜ、リズムが重要なのか。

 上りは大量のエネルギーを消費するので、リズムを一定にすることでエネルギーを効率よく使い、心拍への負担を軽減することで疲労を最小限にできる。その際、今井の言葉にあるように呼吸と足音を合わせることがポイントになる。

山に強い選手たちは
平地の感覚で山を上っている?

 箱根では観衆の声援で自分の呼吸音すら聞こえなくなるが、それを静かな場所や比較的平坦な道で確認するのは、5区を走る選手にはとても重要だ。今井はこう続ける。

「柏原(竜二)君(編集部注/東洋大学。2009年の第85回箱根駅伝から4年間5区を走り、すべて区間賞を獲得し、4年連続で往路優勝に貢献)も神野君も、第100回大会で5区を走って区間新を出した山本(唯翔)君(編集部注/城西大学。2024年の第100回箱根駅伝で5区を走り、柏原竜二以来の2年連続の区間新記録を獲得)、青山学院大学の若林(宏樹)君(編集部注/2025年の第101回箱根駅伝で5区を走り、区間新記録を塗り替えた)も体の使い方、膝や足首の使い方がほかの選手と違うと思うんですけど、僕も含めてみんなに共通しているのは、『上っているぞ』という感覚で上っていないんです。難しい表現ですが、上っているんですけど、平地を走る感覚で上っているんです。

 僕は、日頃から平地の走りが上りでどこまで続くのかを意識していました。僕はその感覚で上れますし、急坂になっても意識は変わりません。リズムにうまく乗れないときは上ろうと思っているときで、いいときは上りを意識せずに上っていけるんです。負荷は変わりますけど、平地のリズム、自分のリズムでどこまで刻めるのか。それをすごく重視していました」