Photo by Yoshihisa Wada
地方銀行の再編を巡り、全国の地銀首脳の間で強く意識されている数字がある。「総資産20兆円」だ。その提唱者は、東海・近畿エリアで地銀株を買い増し続ける投資ファンド、ありあけキャピタルの田中克典代表である。だが田中氏は「経営統合によって単に規模を追えばよいわけではない」と語った。その真意は何か。長期連載『金融インサイド』内の特集『地銀再編サバイバル 売れ残り回避の最終戦』#2では、総資産20兆円の根拠や、地域インフラ企業が地銀を傘下に収める新シナリオ、広域再編の成否を分ける条件について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
地銀「総資産20兆円論」の核心
提唱者が説く広域再編の成功条件とは?
――地方銀行は、なぜ今、再編によって規模を拡大する必要があるのでしょうか。
大前提として、再編そのものが目的ではありません。重要なことは企業価値をどう高めるかであり、再編はそのための一つの手段です。
ただ、その手段としての再編の価値が高まっています。
再編は突き詰めれば規模の問題です。なぜ今、規模が重要なのか。そこには攻めと守りの両面があります。
攻めの理由は、金利のある時代に入り、預金が利益を生むようになったことです。マイナス金利の時代は、預金を集めても簡単には収益につながりませんでした。
しかし今は、預金を獲得すれば利益につながる道筋があります。貸し出しはもちろん、日本国債を買っても、日銀当座預金に預けても、収益を生む余地がある。預金が利益の源泉になる時代に変わり、預金を増やす合理性が出てきました。これが攻めの理由です。
一方で守りの理由もあります。インフレ下では人件費も物件費も上がります。特にシステム費用は固定費的な性格が強い。AIは業務効率化に寄与する一方、セキュリティーリスクへの対応を考えれば、コスト増の要因にもなり得ます。
固定費が上がる時代に、それをどう吸収するのか。その観点からも規模は重要です。攻めと守りの両面から規模の重要性が高まっている。それが、再編の意味が増している背景です。
――守りという意味では、人口減少も大きな要因ですか。
人口減少はもちろん大きな要因ですが、人口が減ること自体は以前から分かっていたことでもあります。
では、なぜ今なのか。やはり金利のある時代に入ったことが大きいと思います。
加えて、今回の金利上昇局面は、かつての金利ある世界と異なる点があります。以前は金利を武器に預金を半ば“自転車操業的に”集める時代でしたが、今はそこにITやAIの要素が加わりました。日本で初めての「金利のある世界×IT」の時代を迎えています。
ITによってリテール戦略を高度化し、高まるコストを吸収していく上でも、規模の重要性が増しているのだと思います。
――田中代表は、総資産20兆円を一つの目安として提唱しました。この20兆円という数字は、どのような考え方から出てきたのでしょうか。
20兆円という数字は、経営面と資本市場の両面から考えた一つの目安です。
もちろん、18兆円では駄目で20兆円なら良いという意味で、絶対的な線引きがあるわけではありません。
ただし、少なくとも総資産10兆円程度の規模で固定費を十分に吸収できるのかという問題はあります。実際に中堅から上位の地銀でも、10兆円程度の規模ではシステム投資やAI投資などの固定費を吸収し切れないのではないかという議論が出てきています。
「総資産20兆円」という数字は何を意味するのか。次ページでその真意を掘り下げるとともに、広域再編の成否を分ける「不可欠な条件」を明らかにする。さらに、りそなホールディングス(HD)と西日本旅客鉄道(JR西日本)の異業種提携の先に見えた、地銀再編の“第三のシナリオ”の全貌をお届けする。







