税務署が「故人の住所歴」を厳しく調査する”納得の理由”とは?
大切な人を亡くした後、残された家族には、膨大な量の手続が待っています。しかも「いつかやろう」と放置すると、過料(行政罰)が生じるケースもあり、要注意です。本連載の著者は、相続専門税理士の橘慶太氏。相続の相談実績は5000人を超え、現場を知り尽くしたプロフェッショナルです。このたび、最新の法改正に合わせた『ぶっちゃけ相続「手続大全」【増補改訂版】』が刊行されます。本書から一部を抜粋し、ご紹介します。

税務署が「故人の住所歴」を厳しく調査する”納得の理由”とは?Photo: Adobe Stock

税務署の恐るべき手口とは?

 本日は「相続と税務署」についてお話をします。年末年始、相続について家族で話し合う際、ぜひ参考にしてください。

 相続税の税務調査では、「これって税金に関係あるの?」と疑問に思ってしまうような質問をたくさんされます。ただ、それらはすべて相続税に関係のある質問です。本日はその1つをご紹介します。

「故人の生い立ち」を詳しく聞く理由

 故人の生まれから、学生時代、初めての就職から定年退職、そして老後の生活まで、過去の生い立ちについて根掘り葉掘り質問されます。

 この質問は、故人だけでなく、相続人(特に配偶者)に対しても行われます。税務調査は朝10時から16時頃まで行うのが一般的ですが、この生い立ちの質問だけで午前中を使い切ることが多いです。

 調査官は、生い立ちを聞きながら、手書きの年表を作っていきます。これが、後々の質問で矛盾した回答をできなくするための外堀となっていきます。

なぜ住所歴まで聞くのか?

 このときに故人と相続人が、どの地域に住んでいたのかを把握し、銀行口座を隠していないかの調査に使っていくことになります。

 2025年現在では、税務署でも、国民一人ひとりの銀行口座の情報を一元管理はできていないようです。地域で当たりをつけ、片っ端から照会をかけていくそうです。

あえて「知らないふり」をして、質問してくる

 また、税務署は前もって調べて裏を取っていて、「この人はこの財産を申告していないな」等をしっかり押さえてから、あえて知らないふりをして質問することがあります。

 国は、みなさんが大体どのくらいの財産を所有しているか把握しています。国税庁には、国税総合管理(KSK)システムという巨大なデータベースがあり、全国民の毎年の確定申告(サラリーマンの場合は給与の源泉徴収票)の情報や、過去にどのくらいの遺産を相続したか等の情報が集約されています。

 その情報をもとに、「この人はこれくらいの財産を持っているだろう」という理論値を計算します。そもそも税務調査に選ばれるのは、KSKシステムが弾き出した理論値と、実際に申告した遺産額に大きな乖離がある方です。

(本原稿は『ぶっちゃけ相続「手続大全」【増補改訂版】』の一部抜粋・編集を行ったものです)