現実主義を貫く姿勢が
ビットコインを生み出した?

 ニックは常に、浮ついたユートピア主義者を「ハローキティ・ピーポー」と呼んで一蹴し、夢を抱きながらも現実の厳しさを忘れなかった(注13)。

 彼はあらゆる議論を現実的な視点で検証し、いま何が実行可能なのかについて、数字を詳細に分析した。

 また彼は、宇宙開発プロジェクトは市場主導であるべきだと信じており、「まず人々のニーズを満たすことから始める、そうすれば人々はついてくる(注14)」と考え、それは「福祉事業」ではないのだと主張した(注15)。

 そして1990年代初頭、彼は自分の金をリスクにさらし、貯蓄のほとんどをクアルコムやオービタル・サイエンシズのような最先端の宇宙技術企業に投資していた(注16)。

 誰かが「細かい数字にうるさい奴」と陰口を叩くと、ニックは気を悪くして(注17)、たとえば小惑星を移動させて金星を地球化(テラフォーミング)する際のキャッシュフローをスプレッドシートで組み立てたりもした(注18)。

 単に科学的に可能かどうかだけでなく、経済的にどれほど実現可能なのかを見極めるタイプだったのだ。

「現実は夢を壊すものじゃない。夢を叶える方法を与えてくれるものだ」と、彼は書いている(注19)。

貨幣についての愛も
造詣も深かったニック

 ニックはまた、貨幣の起源についても深く研究してきた(注20)。

 考古学的観点から物理的な通貨を捉え、かつて世界各地でお金の代わりになっていた物品、たとえば巻貝のビーズやダチョウの卵の殻、マンモスの象牙など、その多彩さを楽しんでいた。

 彼は「クラム〔二枚貝を指す言葉だが、俗語ではお金を意味する〕」や「シェリング・アウト〔シェルは貝指す言葉だが、「シェルアウト」で大枚をはたくという意味になる〕」といった俗語を好んで使っていたが、これらはワムパム〔北米の先住民が貨幣として使用していた、二枚貝に穴を開けて紐に通したビーズ状の装飾品〕として知られる貝殻で作ったビーズに由来する。

(注13)Nick Szabo, “Hello Kitty People,” Unenumerated, October 2, 2008.
(注14)Nick Szabo, “Re:Powersats,” SCI .SPACE, UN, February 18, 1992.
(注15)Nick Szabo, “Manned vs unmanned space exploration,” SCI.SPACE, UN, February 10, 1989.
(注16)Nick Szabo, “Use of Soyuz/ELV Combos for SSF,” TALK.POLITICS.SPACE, UN, January 23, 1992.
(注17)17 Nick Szabo, “Fred’s Operatic Death,” SCI.SPACE, UN, June 17, 1991.
(注18)Nick Szabo, “Re:Is NASA really planning to Terraform Mars,” SCI.SPACE, UN, September 9, 1992.
(注19)Nick Szabo, “NSS and Space Settlement,” SCI.SPACE, UN, October 2, 1989.
(注20)Nick Szabo, “Shelling Out—The Origins of Money,” 2002, WM.