さらにニックは、19世紀の自由銀行時代〔1836年から1864年にかけて、米国のさまざまな州において、銀行の設立や通貨の発行がほぼ無規制で許可された時期を指す〕に、インディアナ州のブーン郡銀行やグレート・ウェスタン鉄道といった企業が発行していた紙幣をコレクションしていた。彼はそれらの紙幣を美しいと感じ、また「政治家たちの顔がほとんど入っていない」ことも気に入っていた(注21)。
日本人風の偽名を使ったのは
日本文化好きが影響している?
誰かがニックがサトシであると主張するたびに行われてきた反論の1つが、彼がプログラマーとしては知られていない、というものだった。
しかしニックは大学時代にコンピューター科学を専攻し、卒業後にいくつかソフトウェア関係の仕事をしている。私は初期のインターネットの記録を漁り、彼が1990年代の初頭に、「ソフトウェアのアーキテクチャとエンジニアリング(注22)」の経験があることや、「広範なハッキング技術(注23)」ならびにC/C++やウィンドウズ/DOSの知識を持っていると、自らをアピールしていた痕跡を見つけた。
机の上にはC/C++関連の書籍が6冊以上はあったと述べている投稿もあった(注24)。別の機会には「自分はけっこうすごいコードを書けるほうだ」とも語っている(注25)。
さらに私は、ニックが日本語を勉強し(注26)、日本文化に関心を持っていたことも知った(注27)。
『サトシ・ナカモトはだれだ? 世界を変えたビットコイン発明者の正体に迫る』(ベンジャミン・ウォレス、河出書房新社)
サトシ・ナカモトのイニシャルである「SN」は、ニック・サボのイニシャル「NS」を逆転させたものだ。これは日本語やハンガリー語のように、姓を名の前に置くという慣習に合致している。
ニックの名前は、ハンガリーであれば「サボ・ニコラス」、日本なら「サボシ・ニカモト」のようになるだろう。
加えて、ニックが2017年にティム・フェリスのポッドキャストに出演した際、インタビューの最中に「私はビットコイ……ゴールドを2層構造で設計しました」と口を滑らせるシーンがあった。私がマイアミで彼の講演を聴いたときにも、ニックは同じように「私が実装……いや設計したビットゴールドでは……」と言い間違えそうになった。
これだけの根拠があって、ニックはナカモトではないなどと思えるだろうか?
(注21)Nick Szabo, “Bank notes from the free banking era,” Unenumerated (blog), August 8, 2008.
(注22)Nick Szabo, “Consulting Services,” Unenumerated (blog), April 2, 2008.
(注23)Nick Szabo, “Extropian priorities,” EX, April 11, 1993.
(注24)Nick Szabo, “Books on my desk,” EX, May 15, 1993.
(注25)Nick Szabo, “Culture:My Extropian Name,” EX, March 14, 1993.
(注26)Nick Szabo, “funny message,” SCI.LANG.JAPAN, UN, January 10, 1991.
(注27)Nick Szabo, “Re:Scientific value of Apollo (was Re:Motives),” SCI.SPACE, UN, December 16, 1989.







