また彼は、自分こそが暗号通貨の父であるという意識を明確に持っており、「非政府通貨の長い歴史を知ることが、信頼を最小限に抑えた暗号通貨を発明するためのインスピレーションになった」と述べている(注8)。

スラングやタイピングの癖まで
サトシに似過ぎている

 2022年に入り、ニックがこれまでネット上に残してきた大量の文章を丹念に読み直してみると、そこからビットコイン創始者の声が聞こえてくるようだった。

 ナカモトはかつて「私の言うことを信じられない、あるいは理解できないなら、もう説得しないよ。すまない(注9)」と書いているが、ニックも「理解できないなら、もう手を出さないよ(注10)」と書いている。

 また私は、2011年にニックから送られてきた長文のメールを読み返してみた。するとそこには、ナカモトと同じように「文末にピリオドを打ったあとスペースを2つ空ける」癖があり、「BTW(ちなみに)」のようなネットスラングも使っていた。

 さらにニックは、オーストリアの経済学者カール・メンガーの研究から、ゲーム理論の先駆者ジョン・ナッシュによる均衡の概念に至るまで、ナカモトが使っていたのと同じ用語や参照文献に精通していた。

「この設計は、私が数年前に考案した、エスクロー取引や保証付き契約、第三者仲裁、複数人署名など、非常に多様な種類の取引をサポートしている」とナカモトは書いている(注11)。

 一方でニックは1994年に「オンラインのデータサービス向けに契約をどう作成したり、取引をどう設計したりするか、そこに特に興味がある」と語り(注12)、中年になってから3年間を費やしてロースクールに通っている。

 未来のお金について大言壮語する人は多かったが、分散型デジタル通貨システムをまともに動く形で実現したのはビットコインが最初だった。

(注8)Nick Szabo, “The Many Traditions of Non-governmental Money (Part i),” Unenumerated (blog), March 23, 2018.
(注9)Satoshi Nakamoto, “Re:Scalability and transaction rate,” BF, July 29, 2010.
(注10)Nick Szabo, “Re:Invasion of Employee Privacy:you can expose unethical practices,” ALT.PRIVACY, UN, September 19, 1993.
(注11)Satoshi Nakamoto, “Re:Transactions and Scripts . . . ,” BF, June 17, 2010.
(注12)Nick Szabo, “Contract law & operating in many jurisdictions,” MISC.LEGAL .COMPUTING, UN, May 8, 1994.