否定も肯定もしない
スタンスを貫くニック
では、ニックはなぜ、ホワイトペーパーで自身の研究が引用されなかったことを気にしなかったのだろう?
ニックが謙虚な性格だったとしても、ハルに代わって「ホワイトペーパーにハルのRPOW(編集部注/ Reusable Proof-of-Work。ニック・サボの「ビットゴールド」の理論に基づいた、デジタル通貨のプロトタイプたる概念。ハル・フィニーが考案した)が引用されていないのはおかしい」と一言くらい言っても良かったのでは?
自身がナカモトではないことを否定するために、彼は「自分の手柄にしたいのはやまやまだけど、でも僕のC++のスキルはサトシの足元にも及ばない」と言うこともできただろうし、あるいは「みんなが僕をサトシだと思うのはわかるけど、この噂話は終わらせよう。2008年と2009年に私が働いていた上司がこちらで、私が付き合っていた相手がこちらだ。この2人が、僕が別のことで1日に12時間働いていたこと、そして僕が長年試みてきたことをナカモトが成功させたとき、僕が嫉妬で身動きが取れなかったことを証明してくれるだろう」と言う手もあった。
確かにニックには、明確な説明をする義務はない。しかし彼が疑われ続けたのは、自分がナカモトだと思われる理由をほとんど認めようとしないからでもある。その結果、人々は彼がナカモトであるか、あるいは自分がナカモトだと思われても一向に構わないのだと思うようになった。
沈黙を守るがビットコインに
対する侮辱は許さない
ニックが沈黙を保つのと同じくらい印象的だったのは、それを例外的に破ったときの過敏な反応だった。
たとえばグウェルン・ブランウェンが、ビットコインはそれほど斬新ではない(注5)と発言した際、ニックは彼の主張が「後知恵の壮大な披露(注6)」だとして長文で反論している。
シリコンバレーの投資家バラジ・スリニヴァサンが、「ナカモト」の名を冠したテレグラムのチャンネルで管理者権限を行使した際、ニックはスリニヴァサンが「ナカモトの名前を自分のもののように扱い、その名の下で人々を検閲するなどという、哀れな企業規範」の持ち主だと批判した(注7)。
(注5)Gwern Branwen, “Bitcoin Is Worse Is Better,” gwern.net, May 27, 2011.
(注6)Nick Szabo, “Bitcoin, What Took Ye So Long?,” Unenumerated (blog), May 28, 2011.
(注7)@NickSzabo4, Twitter, January 5, 2020.







