実質賃金マイナスは10カ月連続
賃上げは価格転嫁、生産性上昇伴わず
日本の消費者物価指数は22年以降、一貫して上昇した。円安の進行とエネルギー価格の高騰、輸入物価の上昇が起点となり、その影響は食料品や日用品、さらにはサービス価格へと広がった。
25年も、物価高騰は収束しないままだ。消費者物価統計(総務省)によれば、消費者物価指数(生鮮食料品を除く総合)は、20年平均の100から、直近公表の25年10月の112.8にまで上昇した。多くの家計は、「生活が苦しくなった」という実感を持っている。
問題は、賃金の上昇が物価上昇に追いついていないことだ。その結果、実質賃金が低下している。「毎月勤労統計調査」(厚生労働省)によれば、実質賃金指数(現金給与総額、5人以上の事業所)の対前年同月比は22年以降、ほとんどの月でマイナスになっている。
直近10月分の同調査でも、実質賃金(速報)は前年同月比0.7%減り、10カ月連続のマイナスの伸びとなった。
これによって、家計の購買力は低下した。実質賃金が上がらないのだから、消費が順調に拡大するはずはない。12月8日に発表された25年7~9月の改訂値によると、実質季節調整系列(年率換算)の対前期比は、GDPは▲2.3%のマイナス成長で、家計最終消費支出の伸びは0.7%だった。
このため、内需主導の成長は実現していない。企業も国内需要の拡大が見通せない中では、設備投資や恒常的な賃上げに慎重にならざるを得ない。
問題の本質は、「賃金がインフレに追いつかない構造」だ。この数年の日本の賃金上昇は生産性上昇と結びついたものではなく、人件費の上昇を価格に転嫁することによって実現したものにすぎない。
生産性上昇を伴わない賃上げは、価格上昇を通じて家計を圧迫する。25年のインフレは、その典型例だった。
潜在成長率は内閣府推計で0.5%
生産年齢人口減少やデジタル化で遅れ
実質賃金が伸びない根底には、日本経済の潜在成長率の低迷がある。
潜在成長率とは、インフレやデフレを引き起こすことなく達成可能な成長率であり、経済の基礎体力を示す指標だ。
日本銀行の資料(調査・研究「需給ギャップと潜在成長率」)によると、25年第2四半期の潜在成長率は0.66%だ(年率、以下同)。
要因別に見ると、技術進歩や効率化などを反映する全要素生産性(TFP)が0.67%、資本ストックが0.31%、労働時間が▲0.44%、就業者数が0.12%となっている。
過去の潜在成長率を見ると、13年頃には1%程度の水準だった。潜在成長率の低下は17年頃から顕著になっている。
潜在成長率は、内閣府によっても計算されている。月例経済報告(GDPギャップ、潜在成長率、令和7年11月26日更新)によれば、25年第3四半期の日本の潜在成長率(対前期比)は、年率で0.5%だ。
要因別の寄与率を見ると、全要素生産性が0.4%、資本投入量が0.2%、労働時間が▲0.2%、就業者数が0.2%となっている。
上述の要因別の数字を見ると、潜在成長率が低迷している要因は明らかだ。







