潜在成長率低迷の原因の第一は、少子高齢化による労働投入量の減少である。
生産年齢人口は構造的に減少しており、労働時間の増加や女性・高齢者の就業拡大によってこれを補う余地も限界に近づいている。
第二に、全要素生産性の伸び悩みがある。デジタル化が十分に進まず、技術革新も停滞している。政府は成長戦略の一環にヒトへの投資を掲げるが成果は上がっておらず、企業もデジタル人材など人材育成を唱えてはいるが、効率向上やコスト削減など短期的な収益確保が優先されてきた。
潜在成長率が低いままでは、成長余地は限られている。そうした状況下でいくら需要を拡大しても、インフレを高進させるだけで、経済の持続的な成長は望めない。
人材・労働市場の構造不全に対処が必要
最重要課題は人材育成への投資
潜在成長率を低くしている最大の要因は、人材・労働市場のあり方にある。
日本の雇用慣行は、依然として新卒一括採用と年功賃金を中心に回っている。この仕組みは、かつては安定した雇用と企業内での技能形成を支えたが、産業構造や技術環境が急速に変化する現代では、むしろ成長の制約要因となっている。
中途採用市場は十分に発達しておらず、成長分野に必要な人材が円滑に移動しにくい。博士人材や高度専門職が、その能力に見合った評価を受けず、専門性を生かせないまま埋没している例が少なくない。
企業内OJTに過度に依存する人材育成の仕組みは、既存業務の効率化には有効でも、新しい知識や技術を取り込む力には限界がある。その結果、生産性が上がらない。
26年に臨んで最も重要な政策課題は、供給面の改革、とりわけ人材育成への本格的な投資だ。大学をはじめとする高等教育機関の拡充と質の向上、社会人の学び直しの促進、高度専門人材を正当に評価する労働市場の整備が不可欠だ。
人材への投資こそが、生産性を高め、潜在成長率を引き上げて、実質賃金の持続的上昇を可能にする。
物価を上昇させるだけでは、日本経済は豊かにならない。25年の経験が示したのは、その厳しい現実だ。26年に求められているのは、需要を増やそうとする目先の対症療法ではなく、経済の基礎体力を鍛え直すための供給サイドの長期的戦略だ。
その中心に据えられるべきは人材であり、教育である。これを実行できるかどうかが、日本経済の将来を決定づける。
(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)







