田中 まず、仕事の任せ方ですね。ある上司は、「君が100点だと思うものができたら、持ってきて」という指示を出します。これ、心理的リソースをすごくすり減らすんです。

 だって、土日しかないんだから100点の仕事なんてできるはずがないじゃないですか。土日に仕事をしながら、「これじゃ、持っていけない…どうしよう…」とずっとドキドキしながら仕事をしなくてはならないわけです。

 とはいえ、持っていかなかったら、それはそれですごく怒られるのもわかっている。土日に出社してたったひとりで仕事をしていると、ネガティブなことをいろいろ考えて、それだけで心理的リソースがすり減ってしまうんですよ。

櫻本 それ、わかります(笑)。

「雑談」はタイパは悪いが、サイパは非常によい

田中 でも、そうじゃない上司もいらっしゃいました。同じように無茶振りをしてくるんですが、「100点になったら、持ってきて」みたいに無駄なプレッシャーをかけるようなことはしないし、土日には、その人もすごくカジュアルな格好で出社してきたりするんですよ。

 それで、フラフラと僕のデスクのところにやってきて、「どうよ~?」なんて声をかけてきて、「こういうので困ってるんじゃない?」みたいな感じで、こっちの“困り事”について先回りして言ってくれたり、その解決策について知恵を貸してくれたりして……30分とか1時間とか雑談になったりするんです。

 まぁ、それで問題が解決することもあれば、全然外れていたりもするんですけど、ひとこと声をかけてくれるのが嬉しいですし、いろんな話をしていると、「この人も苦しいことを経験してきて、僕の気持ちや悩みも理解してくれてるんだな」というのが伝わってくると、30分とか1時間とか雑談で費やすのは無駄ではあるんですけど、そのおかげですごく心理的リソースが満たされてくるんです。それで、やる気が湧いてきて、仕事が片付いてしまったりという経験があるんです。

櫻本 なるほど。たしかに、雑談は「タイパ」は悪いように見えるかもしれないけど、そこから生まれる心理的リソースを考慮する「サイパ」がよいケースは多いですよね。

 私も、上司の在り方によって、心理的リソースの状態が大きく左右される経験をしました。おおざっぱにいうと、「恐れ」によって部下の心理的リソースを引き出す上司と、「願い」によって心理的リソースを引き出す上司の違いと言いますか…。

 わかりやすく言えば、「恐れ」を生み出す上司は、「これができなかったら、評価を下げる」とか、「これができなかったら、厳しく叱責する」などと部下にプレッシャーをかけることで、力を引き出そうとします。部下にすれば、「恐れ」を遠ざけるために頑張ろうという気持ちになって、たしかに心理的リソースが生み出されることはあるんです。先ほどの「100点」を求める上司は、そのタイプだと言えますね。

 だけど、その仕事をやり遂げたとしても、そこにあるのは「達成感」などのポジティブな感情というよりは、「やっと終わった」「これで解放される」という安堵感です。だから、「恐れ」だけでは、徐々に心理的リソースがすり減っていくんですよね。

田中 ええ、そういうことですね。

「願い」を生み出す上司が最強である

櫻本 一方、「この仕事をやり遂げたら、世の中にこんな価値を提供できる」「いまはしんどくても、必ず成長できるから頑張れ」などと、未来に向かって前向きな「願い」を生み出してくれる上司もいます。

 そういう上司に対しては、「この人のためだったら、ちょっと苦しくても耐えられる」「頑張ればきっといいことがある」といったエネルギーが湧いてきますよね。こういう想いを、関係性のなかで自然に生み出している上司のもとでは、「上司が求めているものより、もっと高いクオリティで期待に応えたい」という気持ちになるんです。

 そして、ひとつの仕事をやり遂げたら、「やっと終わった」とホッとするというよりも、「次はもっといい仕事がしたい」といった形で心理的リソースが生み出される。だから、多少無理して仕事をがんばっても心がすり減ることはないんです。

田中 そうそう、同じ仕事でも全然違うんですよね。

櫻本 極端なことを言うと、人の心を殺すのは多くの場合労働時間そのものではないと思うんです。もちろん、しっかり休養や睡眠をとることはすごく大事なことですが、「これだけ頑張れば、きっと成果があがる」「いい仕事をすれば、この人が喜んでくれる」「いまはしんどいけど、きっと成長できる」と信じられるときには、どんなに労働時間が長くても、メンタル不調に陥らないこともあります。

 逆に、そこまで労働負荷が高くなくても、どんな成果が出るのかもわからないし、褒められるわけでもなく、将来に対する期待ももてないという状況のなかで、人は鬱っぽくなっていくんです。(つづく)

(本対談は櫻本真理さんの著書『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』について語り合っていただいたものです)