櫻本 これは、けっこう大きな分かれ目ですよね。わりとどちらかのスタイルに二極化しがちだなと思うので……。そして、心理的リソースの観点で考えると、「マイクロマネジメント型」と「権限委譲型」では、心理的リソースの使われ方が違うと思っています。

「マイクロマネジメント型」の場合は、「上司は何を期待しているんだろう?」などと、上司の脳内を推測することに心理的リソースを使っているケースが多いんじゃないでしょうか。そして、「上司の正解」から外れることを恐れたり不安になったりすることでも、心理的リソースを消耗している。それゆえに、「どうすればゴールに向かって最適な答えを出せるだろうか」という価値を生み出す思考に心理的リソースが向かわず、「マイクロマネジメント型」はサイパが悪くなりがちだと思います。

田中 なるほど、そうかもしれませんね。

櫻本 一方、田中さんがさっきおっしゃったように、「権限委譲型」の場合には、「上司に信頼されている」「自分で仕事をコントロールできる」という願いを生み出す形で心理的リソースが増幅しやすいと思いますが、その反面で「何をやればいいのか」を、自分の頭で考えるために膨大な心理的リソースを使わなければなりません。

 つまり、「権限委譲型」の場合には、得られる心理的リソースも、消費する心理的リソースも多くなる傾向があるので、「マイクロマネジメント型」よりも使うリソース総量は多くなるように思います。その意味では、うまく「何をやればいいか」がイメージできる構造設計さえしてあげれば「マイクロマネジメント型」よりも「権限委譲型」のほうが創造的な仕事に使う心理的リソースは大きいと言えるかもしれませんね。

田中 たしかに……。

櫻本 結局のところは、どっちか両極に振り切るというよりは、相手に合わせてちょうどよいバランスをとることが大切なんでしょうね。たとえば、入社したての経験不足な若手に、いきなり「何をやるか自分で考えて」と言っても無理があるので、ある程度、マネジメント・サイドで“補助線”を引いて無駄な心理的リソースを使わずに済むように導いてあげるほうがいいでしょうからね。

 ただ、特に若いうちは、創造的なことに心理的リソースをなるべくたくさん使ったほうが、「想像力」「思考力」などを鍛えたり、「経験値」を増やしたりという形で、その人の成長につながるので、無茶振りによる心理的リソースの無駄遣いを防ぎながらも「権限委譲型」に近いところでマネジメントをしていくのが望ましいとは思いますね。

「マイクロマネジメント」と「権限委譲」は二者択一ではない

田中 そうですね。いまの櫻本さんのお話は、『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』でも触れられていて、部下の自由裁量を増やすのか、マネジメント側のコントロールを強めるのかは、二者択一の問題ではなく、相手の状況に応じて調整すべきものだということですよね。

 そこは少し反省点でもあるんです。僕は「権限委譲型」のマネジメント・スタイルをとっていましたが、それで不安を覚える部下もいるわけです。そういう部下に対しては、心理的リソースが消耗してそうなタイミングで声をかけたり、1on1をやったり、ケアをしていくことが必要なんですが、そこが不十分だったところがあったんじゃないかと思うんです。

 それって、部下の仕事ぶりをチェックしたり、監視したり、管理するということではなく、「君のことを気にしてるよ」というアテンションを示すというか、先ほどの櫻本さんの言葉を使えば、「何かあればサポートするよ」という“補助線”を引くようなイメージですよね。

櫻本 そうですね。田中さんはそのあたりも丁寧にやられていそうなイメージはありますけどね。

田中 いえいえ、僕はマネジャーとして“ありそうな失敗”は、一通りやってきてます(笑)。たとえば、部下に対して大幅な権限委譲をしていますから、チームの定例会議などの場で、定期的に状況報告をしてもらう必要があるのですが、ちょっとネガティブなことが起きている案件については、その場できちんと状況把握をしようとすると、他のメンバーもいるなかで突っ込んだことを聞いていかざるをえないわけです。

 ところが、僕としては、状況確認をするために淡々と質問しているつもりなんですが、部下にとっては「詰問」になってしまうんですよね。しかも、みんながいる目の前で……。その結果、険悪な雰囲気になってしまったことが何度かありました。みんなの前でやるべきではなかったと、あとになって反省しましたね。

 この失敗の問題は、その部下の心理的リソースをすり減らしてしまったというだけにとどまらず、同僚が“詰められる”のを見た他のメンバーたちが、ネガティブな報告をするのを躊躇するようになることにあります。

 これが深刻なんです。報告するのを躊躇しているうちに、その問題が雪だるま式に大きくなってしまったり……。僕にすれば、「もっと早く言ってよ」という気持ちになるんですが、なぜ、そんなことになったかと言えば、僕が「詰める」ようなことをしてしまっていたからなんですよね。

「コーチャビリティ」こそが上司の絶対条件

櫻本 うんうんうん、それはめちゃくちゃわかります。私も、同じような経験を何度もしてきました。

 リーダーには影響力がありますから、さきほどの田中さんのように、単に事実確認をしただけのつもりなのに、部下にとっては「詰問」ととらえられたり、他のメンバーを「萎縮」させてしまったりということが起きるんですよね。私も、「あれは失敗だったな」と思うことがたくさんあります。

 でも、こういうことって失敗を通してしか学べないようなところがありますよね。『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』にも書きましたが、リーダーが「自分の本当の姿」を知るのって難しいと思うんです。リーダーが「よかれ」と思ってやっていることが、部下の心理的リソースを奪っているケースは非常に多いですからね。

田中 そうですね。

櫻本 だからこそ、私は、リーダーにとって最重要な能力は「コーチャビリティ」だと考えているんです。
「コーチャビリティ」とは、「周囲のフィードバックを受け止めて、自己成長につなげる力」のことです。私はこれまでたくさんのリーダーに伴走してきましたが、周囲によい影響を与えるリーダーになれるかどうかを決めるのは、地頭のよさでも人当たりのよさでもなく、この「コーチャビリティ」の有無なんです。

 その意味では、田中さんは、かつての部下の方々の反応をフィードバックとして受け止めて、自己成長に繋げられているということだと思います。

田中 いえいえ、僕にはまだまだ「コーチャビリティ」は足りないですよ。でも、おっしゃるように、失敗から謙虚に学ぶことでしか、マネジメント力を磨くことはできませんよね。これからも、そのことを忘れずにやっていきたいと思います。(つづく)

(本対談は櫻本真理さんの著書『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』について語り合っていただいたものです)

連載第1回 https://diamond.jp/articles/-/380108