日本では2024年1月に開催された「第56回ミス日本コンテスト」で、ウクライナ出身で日本国籍を持つ女性がグランプリに選ばれ、SNSなどで「日本らしい美しさといえるか」「日本代表にふさわしいと思えない」などといった批判が集中したことがある。

 この女性は5歳のときから日本で暮らしており、日本語も流暢だったが、容姿が欧州系の特徴であることから賛否が大きく分かれた。

 結局、この女性は受賞後に不倫報道を受けてタイトルを返上することになったが、先進国ではマイノリティが代表になりやすい傾向があるのかもしれない。

 ミス・フィンランド女性の場合、「マイノリティも平等に舞台に上がれる国の代表」としての意味があったことは想像に難くない。

 そのミス代表が東アジア差別をしたとなると、実はかなり深刻なことになる。なぜなら、「差別のない国の象徴」として選ばれたのだから、その象徴が差別をしたというのは、大いなる矛盾をはらむからである。

表立って批判しにくい
中国への「複雑な感情」

 上述したように、フィンランドにおいてロシアはもはや「差別意識の対象かどうか」の議論には乗らない存在である。圧倒的に軍事大国であるロシアはフィンランドにとって明確な脅威であり、とくにウクライナ軍事侵攻以降は国家の存続を脅かす存在となっている。

 フィンランドは長らくEUにもロシアにも与しない「中立政策」をとってきたが、ウクライナ侵攻以降はNATOに加盟し、ロシアとの国境管理を強化してロシアを明確な仮想敵として定義し、ロシアに依存しないエネルギー政策へと転換している。

 もはや「反ロシア政策」が安全保障の中心となっているフィンランドにおいて、ロシアが仮想敵であることは国民のコンセンサスだといってよい。したがって、いくらロシアを批判したところで問題になることはほとんどありえず、差別意識を示したところで問題にはなりにくい。

 それに対して、中国に対する感情はかなり複雑である。

 中国はロシアの経済・安全保障のパートナーであり、フィンランドにとって中国は「敵の味方」という意味で「敵」に分類しうる。さらに、ウイグル人問題やチベット問題など人権問題を抱えた強権国家として、人権意識の高いフィンランドにとってはすんなりと受け入れていい存在ではない。

 フィンランドと中国の経済的な結びつきが強く、ロシアのような明確な仮想敵ではない。また、ロシアと違って「アジア人国家」であることから、ポリコレの意識の強いフィンランドでは表だって批判しにくい空気もある。

 ただし、あくまで「批判しにくい」だけであって、反発心はあったのだろう。それが今回は表に出て問題が大きくなったわけである。