政治家による差別的ポーズ投稿が
日本人には理解しがたい理由

 政治家が追い打ちをかけて差別的ポーズを投稿して擁護するという行動は、日本人には理解しがたいが、これはおそらく文化的差異がもたらしたところもあるのだろう。

 日本社会には、本音と建前を使い分ける文化があるが、フィンランド社会では「建前」を嫌い、本音を隠すことは不誠実だと考えられている。「空気を読む」「察する」「あえて言わない」といった日本的な態度は誠実だとはされていない。

 現在は、その本音の社会とポリコレがせめぎ合っている。そのため、本人には悪意なく、むしろ誠実に発信したつもりでも、社会的には差別としてとられるということが起こる。

「本音はともかく、相手が傷つくのだから止めろ」という説得が通じにくいわけである。

事態悪化の背景にある
移民社会としての歴史の浅さ

 フィンランドは北欧の中でも人口構成が均質で、移民社会としての経験が比較的浅い。差別はいけないという規範意識は強いが、差別がどのように生まれ、どのように人を傷つけるかについての経験はさほど積み重なっているとは言えないだろう。

 また、ロシアという現実の脅威が存在してきたことで、外部から来るものへの警戒にどう対応するかを常に考えてきた政治文化がある。

 今回の「つり目ポーズ」の騒動は、フィンランドの素朴さと本音の文化、そして近年拡大したポリコレ文化との衝突の中で生まれたものである。

 本来であれば、すぐに謝罪してミスを剥奪すれば沈静化するところだったが、その影響があまりに広がったことで、処世術に長けていないフィンランド政治家がいきり立って擁護に回り、事態をさらに悪化させたのが今回の騒動の原因だろう。

「ポリコレが差別行動を生んだ」という珍しい現象であるが、その背景には「建前を使い分けられないフィンランド人」の不器用さがもたらしたと考えるべきなのかもしれない。

 また、このように極端な行動に出る者はフィンランド人のごく一部であり、大半のフィンランド人は今回のようなことを許容しているわけではないだろう。私たちは今回の件だけで、フィンランド人全体を差別するような行動をとるのは控えたいものだ。

(評論家、翻訳家、千代田区議会議員 白川 司)