他方鳩山たち野党・政友会は、帝国憲法の不備を突くことによって「統帥権」という化け物を政治の表舞台に押し上げ、軍部がこれを利用することで、その後の日本の運命を大きく変えていく。

 野党の役割は、単に政府与党を批判し政権の座から引きずり下ろすことだけではない。国民の負託に応えるために、たとえ政府・与党提案であっても、国益にかなう政策に対しては賛成や建設的な修正提案を行う大局観が求められよう。

 ロンドン軍縮条約の教訓は、野党が政権獲得という目先の目標のために自分の信念すら捨て、世界情勢を顧みず、政府攻撃をした点にある。

 真に責任ある野党は、大局観を持つべきである。

 大局観とは、「世界の中の日本」という広い視野と、「歴史に学び未来を見通す」時間的な深い洞察である。

 その大局観を現実の政治に活かす勇気、政権奪取より大局観を優先する勇気、利己的な野心を乗り越える勇気こそが、いま求められているのではなかろうか。

『鳩山一郎回顧録』に出てこない
「ロンドン軍縮条約」の文字

 鳩山一郎には、回顧録がある(『鳩山一郎回顧録』)。驚くべし。この本の中には、濱口雄幸の「は」の字も、ロンドン軍縮条約についても、まったく、一言も、そんなことはなかったかのように、出てこない。本の序には、

「少しでも飾ってやれとか、隠してやりたいとかいう考えすら、毛ほどもなかったことを、自ら顧みて誇りに思っている」

 と、臆面もなく書いている。自らの失敗を正直に吐露して反省し、それを後世のための教科書とすることが、真に誇るべき態度ではないのか。

 鳩山はまるで言い訳のように「(本の)内容は終戦後のこと」に特化したとわざわざ書いている。

 戦前の自分の言動には、触れたくないのである。

「軍部の独裁が日本を戦争の道に進ませた」というが、そこには、鳩山のような政治家たちの政治的自滅行為も付加されるべきではなかろうか。