これが能になると、時間の流れ方はさらに室町時代にまでさかのぼり、まるでスローモーションのようだ。でも、どんなジャンルでもそうだが、その時間の流れに身を委ねなければ、深いところまでは味わえない。派手なところだけダイジェストで、なんて見方では、ちゃんと鑑賞したことにならない。
「木綿のハンカチーフ」……
イントロが秀逸な曲の数々
そんな充電期間を5年ほど送って、作詞に復帰した。もう一度スイッチが入ったきっかけは……、なにかの偶然というものだろう。氷室京介さんの「魂を抱いてくれ」やKinKi Kidsの「硝子の少年」などが生まれた。
そしていま、スポティファイやユーチューブがテレビの歌番組に取って代わる音楽メディアになった。定額でいくらでも世界中の曲を聴けるサブスクリプションの恩恵を、自分も受けてはいるけれど、イントロなんて要らない、いきなりサビでいいという、せわしない世の中になったのも事実だ。
たとえば「木綿のハンカチーフ」(太田裕美)は、編曲の萩田光雄さんが作ったギターのイントロが秀逸だった。「赤いスイートピー」(松田聖子)のイントロは松任谷正隆さんの手によるもので、これまたシンプルだけど印象的だ。ひるがえっていまはイントロ受難の時代。歌詞にしても、ぼくの作品はだいたい、ワンコーラス(1番だけ)やテレビ向けのワンハーフ(1番+サビ)を聴いただけでは、全貌はつかめない。氷山の一角を見ているようなものなのだが。
今回のKinKi Kidsの「高純度romance」は、発売前にまずワンコーラスだけ公開された。SNS上の評判は、賛否両論というところ。しばらく後にラジオでフルコーラスが流れた。チャーシュー麵を食べながらスマホでリスナーたちのSNS実況を見ていたが、2番以降も聴いてやっとファンたちも気に入ってくれたようだった。
もしも好きだった曲があれば、試しに1曲丸ごと、イントロからエンディングまで聴いてみませんか。懐かしさを上書きするようなぼくたち作り手の企みに、ひょっとすれば気づいてもらえるかもしれないから。(2022年4月9日)






