――イノベーションの活性化は知財戦略の大きな目的の一つだと思いますが、日本経済の屋台骨を支える中小企業やスタートアップにおいて、知財戦略を通じたイノベーションの活性化は期待できますか。
柳澤 十分に期待できると思いますし、むしろ中小企業やスタートアップこそ、知財をうまく使うことでイノベーションを加速できる余地が大きいと考えています。
中小企業は研究開発費や人員が限られている一方で、特定分野において非常に尖った技術や、長年培ってきた独自の強みを持っているケースが少なくありません。そうした強みを知的財産として可視化し、経営に活かしていくことが重要になります。
特許情報を分析すると、自社の技術が市場や技術開発のトレンドの中でどの位置にあるのか、競合と比べてどこが強みなのか、どの企業と組めばシナジーが出そうかといったことが見えてきます。これは新しい事業の方向性を考えたり、大企業との共同研究やオープンイノベーションを進めたりする上で、非常に有効な経営情報になります。
また、後継者不足に悩みながらも優れた技術を持っている中小企業は多くあります。特許データを通じてその技術力を外部に示すことができれば、大企業との事業提携やM&Aにつながり、技術を別の形で活かす道も開けます。スタートアップについても、知財によって技術の価値が客観的に示されることで、資金調達やパートナー選びにおける交渉力が高まります。
驚くほど充実している
特許庁の「知財経営」サポート
――企業が知財経営に取り組む際、特許庁としてはどのような支援を行っているのでしょうか。
柳澤 「知財経営をやりたい企業が、経営の最上流から実務レベルまで一気通貫で支援を受けられる」ことを目指して、いくつかのメニューを用意しています。
まず、大企業向けには、特許庁の長官や幹部が企業の経営トップと直接意見交換を行う場を設けています。毎年20社程度の大企業の社長と特許庁長官が懇談し、それとは別に部長級が年間80社ほどの経営層と対話しています。そこで知財経営の重要性や先進企業の事例を共有しつつ、「自社では知財をどう経営に組み込むか」を一緒に考えていただく、いわばトップマネジメント向けの啓発・伴走のような位置付けです。







