柳澤 次に、中小企業向けには、INPITという独立行政法人を通じて、IPランドスケープの導入を支援する事業を用意しています。知財情報分析の専門家が、特許データを用いた簡易な分析を無料で行い、「競合との位置関係」「自社の強み」「潜在的なパートナー候補」などを可視化することで、「知財情報が本当に役立つ」という感覚を持ってもらうという入口の支援です。さらに一歩踏み込んだ企業には、大企業での知財マネジメント経験を持つ人材を「エキスパート」として派遣し、現場に入り込んで伴走する個社支援も行っています。
世界44の国・地域の特許庁と連携し
特許審査を短期化
柳澤 グローバル展開を目指す企業向けには、日本で特許を取得した発明を海外で迅速に審査してもらうための「特許審査ハイウェイ(PPH)」を、現在世界44の国・地域の特許庁と結んでいます。日本で特許になった出願を基に、米国など主要国での審査を大幅に早めることができるスキームで、スピーディに国際的な権利を確保したい企業にとって、非常に有効な手段です。

たとえば米国に通常の手続きで特許出願すると、最初の審査までの待ち時間が平均22.6カ月かかりますが、PPHを利用した出願を行うと平均7.5カ月(2025年)に短縮されます。2024年に日本への特許出願を基にPPHを利用して海外へ特許出願した件数は、約5500件に上ります。
さらに、特許審査そのものも「事業戦略に寄り添う審査」へと変えてきています。面接審査を積極的に活用し、企業側の事業戦略を聞いた上で、「どう補正すれば、事業内容をうまくカバーできる権利になるか」をその事業に関係する出願を担当する複数の審査官がグループで検討する「事業戦略対応まとめ審査」のような枠組みも用意しています。
また、コーポレートガバナンス・コード対応として、知財投資や知財戦略をどう投資家に開示すればよいか、そのストーリーの書き方を示すガイドブックやIPインテリジェンスを実践するための手法を紹介するガイドブックなど、各種ガイドブックも発行しています。
こうした経営トップ層への啓発から、分析支援、伴走支援、海外展開支援、審査の工夫、開示のサポートまでを組み合わせることで、企業が「知財を経営のど真ん中に置いて稼ぐ力を強化する」後押しをしていきたいと考えています。
>>「『攻めの知財経営で日本企業の競争力は必ず復活する』特許庁が支援を惜しまない理由~特許庁総務部企画調査課長 柳澤智也氏に聞く(上)」を読む







