佐藤さんは今、自分の経験も生かしながら、社内の介護離職対策として次の3点を強化しています。

【社員が介護で離職するのを防ぐために必要なこと】
・介護と仕事の「両立」ではなく「分離」をサポートする体制づくり
・親を施設に入れることへの心理的抵抗を軽減するカウンセリングの提供
・親の財産管理や終活をトータルにサポートする専門家の紹介

介護離職対策の本質は「遮断」にある

 読者のみなさんは、ここまで読んでどう感じられたでしょうか。母を自分で介護せず、病院や施設に入れた娘は冷たいと思いましたか?

 介護離職対策の本質は「両立」ではなく「遮断」にあります。介護離職問題やビジネスケアラー問題に向き合う時、私たちが意識すべきは、介護をしながら働き続けることではなく、介護の負担から解放された状態で働き続けられる環境づくりではないでしょうか。

 佐藤さんのようなケースは、今やまったく珍しくありません。働きながら介護をする「ビジネスケアラー」は、今や全国で365万人。これは、働く人の約17人に1人に当たります。介護や看護を理由に仕事を辞める「介護離職者」は、年間およそ10万人。これを時間換算すると、わずか5分に1人が、キャリアや生活のために築いてきた大切な仕事を手放している計算になるのです。みなさんのすぐ隣の席の同僚が、あるいは、今この記事を読んでいるあなた自身が、その一人かもしれません。

 企業の人事担当者のみなさん、福祉の専門職のみなさん、そして、今まさに親の介護問題に直面していたり、親の様子に異変を感じはじめている現役世代のみなさん。今一度、介護離職対策の本質について考えてみてください。

 介護離職問題の解決に必要なのは、仕事と介護を無理に両立させようと対症療法を繰り返すことではありません。むしろ逆で、「親の介護と自身の仕事を明確に分離・遮断すること」です。具体的には、在宅家族介護から施設介護へシフトする覚悟と、その心理的抵抗を解消するためのケアに他なりません。

 親にとっても子にとっても安心・安全・快適な選択であると同時に、親が完全に判断能力を損なってしまうまでに、財産管理と承継の具体的道筋をつけてしまうこと。これこそが、親の介護問題に直面した現役世代が、老い先にそなえてこなかった親のエンディングまでのそなえを一気呵成に済ませてしまう、起死回生の老親対策に他ならないのです。