日本の業務の仕方を海外に広めて
「先行者優位」を作り出せ

 生成AIによる新しい業務の仕方で、さらに輸出が期待できる一例をあげてみましょう。「安全性」や「高品質」は日本の企業は得意としていることであり、日本の業務の仕方そのものを海外展開できる可能性があります。

「声出し」や「指差呼称」は、対象を見て(対象物を指で差しながら)声に出し、自らの耳で聞くという動作の組み合わせにより、ヒューマンエラーを防ぎ、注意力や集中力を高めて、業務の安全性を向上させます。日本では鉄道業だけでなく、製造業や建設業でも行われていますが、海外では船舶や航空業界など一部を除き、導入は皆無といえます。このため、海外の人々からは「声出し」や「指差呼称」は奇異に映ることもあるようです。

 しかし今後、音声入出力AIと言語生成AIの組み合わせにより、AIが作業者の「声出し」を聞き取り、その作業者だけでなくAIも安全確認に関与できるようになります。この結果、「声出し」による安全確認の効果は格段に高まると考えられ、海外でも「声出し」などを導入する事例が増えることが期待されます(※3)。

書影『2030 次世代AI 日本の勝ち筋』(佐藤一郎 日経BP)『2030 次世代AI 日本の勝ち筋』(佐藤一郎 日経BP)

 このとき日本の勝ち筋は、ツールとしてのAIを海外に展開することではありません。日本の業務の仕方の中で、AIの活用により効率性や安全性を高められるものを見つけ、作りだし、その業務の仕方を海外展開し、その過程で、その業務の仕方を支援するAIも海外に展開していくことになるはずです。

 日本の業務の仕方を海外展開する手法について、政府が売り込む方法もありえますが、コンサルティング的方法や、ISO9001のような国際標準業務とする方法もありえます。その中でも、業務における「安全性」と「品質」は日本が先行しており、さらに国際標準化しやすい対象です。

 その安全性や品質を重視した業務の仕方が国際標準になれば、日本の業務の仕方を支えるAIは自ずと優位に立てることになります。また、そのときAIの活用は、業務の仕方を国際標準化するときの錦の御旗にしやすいといえます。

 AIは所詮、業務を進める手段にすぎません。したがって、そのAIの開発では業務を深く理解している者が有利になります。例えば、企業会計制度を海外制度に合わせた場合、会計システムの開発では、その制度に精通した海外企業の方が優位になりました。逆にいえば、日本の業務の仕方を海外に広めれば、それを支援するAIの開発・提供において、日本は先行者優位を作り出せます。

※3 AI導入とは直接の関係はありませんが、「指差呼称」は1996年にニューヨーク地下鉄、2019年にはリオデジャネイロの近郊鉄道で採用された実績があります。