そもそも飲食店は営業許可を得る段階で、施設の構造設備について一定の基準を満たす必要がある。多くの自治体の基準では、ホコリや廃棄物による汚染を防ぐ構造に加えて、「ねずみ及び昆虫の侵入を防止できる設備を備えること」が明確に示されている。
もちろん許可を取れば終わりではない。21年6月から原則化された「HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理」では、営業者は衛生管理計画を作成し、その中で防鼠・防虫の手順を定め、実施結果を記録・保存することが求められている。
具体的には、網戸や排水溝の蓋などによる侵入防止対策、そして定期的な生息調査と駆除作業、その記録が要点だ。これらを計画的に実施・検証することが法的な「最低ライン」となる。
ところがこれは理想論と化してしまっていて、実態は異なる。異物混入がなくならない理由、それは現場の努力不足などという精神論よりも、「多層工程」であるがゆえの構造的要因が大きい。
外食は、仕入れ、搬入、保管、仕込み、調理、盛り付け、提供、下げ膳、清掃まで、人と物が高密度で動く。しかも回転率が利益を左右するため、スピードも求められる。慢性的な人手不足が続く中で、従業員を確保し、しっかり育成することは難しい。
建物構造や周辺環境のリスクも無視できない。都心の繁華街では、再開発ラッシュが続いている。東京都の資料などでも、ビルの取り壊しによって住処を追われたネズミが近隣の住宅や店舗へ移動し、被害が増えたとされる旨が記載されている。
飲食店がいくら自店の清掃を徹底しても、入居するビル自体が古く隙間が多かったり、周辺で大規模な工事が始まったりすれば、侵入リスクは跳ね上がる。エリア全体の問題なので、一店舗の自助努力では限界がある。
飲食店は、客の目に触れないところで、必死に衛生とオペレーションを回し続けている。ただ、害獣・害虫対策は、費用と手間を要する割には、売り上げに直結しづらいアクションでもある。
新宿の焼肉店のケースでは、店側は1月2日に発生した事実を認め、直後に殺処分したこと、翌日に専門業者による殺菌消毒を行ったこと、さらには保健所の調査を受け入れたことを説明した。しかし、映像のインパクトに加え、現場での初動対応が遅く見えたことが、世間の不信感を増幅させる結果となった。
外食産業において、異物混入は最も避けたい事故の一つだ。だが、残念ながら発生確率をゼロにするのは極めて難しい。重要なのは、発生確率を極限まで下げ、万が一起きたときの被害と不信を最小化することだ。







