派閥の分裂を避けたい野中広務さんは父に、「こんな厳しい経済状態の時に、あなたが総理をやるのはやめなさい。(中略)また機会があるじゃないですか」と出馬を断念するよう促したそうです。しかし、父は色をなして反論しました。

「小渕恵三、これでも男だ!いったん立候補すると言った以上、絶対にやめない。そんなこといってやめるんなら、俺は衆議院議員を辞める。絶対に立候補は貫き通す。結果は天が決めることだ」

 3年前、地元で「これからは鬼になったつもりでやる」と言った言葉通り、父はここで勝負に出たのです。野中さんはのちに「あんな怖い、意志の強い小渕恵三を見たのは、最初で最後でした」と語っています。

 正直に言うと私にとっても、「総裁選なんてやめておいた方がいいのに」というのが率直な思いでした。あまりに普通で優しい父が、日本のトップリーダーになるということが想像できなかった。テレビや週刊誌で叩かれることも予想できました。母も「総理大臣になったら離婚します」と伝えたこともあったと言います。

 父はこの時も家族には何も言いませんでした。しかし、政治家としての覚悟は背中から伝わってきました。危機に瀕したこの国を背負う覚悟を決めたのだと思います。父にとって最初で最後の大勝負。今思えばそんな父を、もっと前向きな言葉で応援してあげれば良かったと思います。

「凡人、軍人、変人」の総裁選は
凡人の惨敗が予想された

 結局、総裁選は、父と梶山さん、小泉純一郎さんの3つ巴の戦いとなりました。田中真紀子さんから「凡人、軍人、変人」の戦いと表現された組み合わせです。

「戦う以上は勝って欲しい」。当初は心配ばかりで気持ちの乗らなかった家族も、そんな思いに変わっていました。

 私は直前にTBSの営業局から、情報番組「はなまるマーケット」のアシスタントディレクターに異動していました。この総裁選ではテレビの討論番組で“テレゴング”と言われる視聴者による電話人気投票が、一種のはやりとなりました。