教育のため、組織のため――そんな崇高な理由ではない。今この瞬間も現場は悲鳴を上げている。本当は改善したいのに、その時間(スイッチングコスト)を捻出できず、誰も最初の一歩が踏み出せない。すると、非効率なまま運用が続き、さらに現場が消耗し、ますます改善に手が届かなくなる。藤本さんは、その悪循環がもう耐えられないのだという。

「このままでは日本がやばい。危機感を抱くだけで終わって、具体的なアクションにつながらないのは、今の世代で終わりにしたい。DXは、現場が無理なく回り、改善に手を伸ばせる余白を取り戻すためにやるんです」(藤本さん)

孤独な大学DX推進者コミュニティに、全国120超の大学が集まる

 そんな藤本さんには、よりどころがある。藤本さんらが立ち上げた「大学DXアライアンス」だ。各大学で孤独に闘うDX推進者たちが、組織の垣根を越えてノウハウを共有する。参加大学は1年半で全国120を超えた(2026年1月時点)。

 共有されるのは、技術の話というよりも、“政治”の話だ。たとえば藤本さんは、2019年にGoogle Workspaceを導入した経験を共有した。それ以前、学内のメールシステムには年間数千万円ものコストがかかっていた。にも関わらず、メールが届くまで5分かかることもあったという。藤本さんが、Gmailが使えるGoogle Workspaceを提案すると、「米国に情報を抜かれるのでは」と猛反対を受けた。

 いわゆるパトリオット法(米国愛国者法)への懸念だ。米政府がデータを傍受できるリスクがあるとして、2015年頃まで一般企業でもクラウド反対の根拠にされていた。その印象が根強く残っていたようだ。

 ただ、「これが使い慣れたマイクロソフトのサービスなら、こんなに苦労しない」と寺尾さんは言う。パトリオット法は米国企業のサービス全般に共通するリスクだ。それなのに、昔から使っている製品は課題があっても受け入れ、新しいものは理屈をつけて遠ざけてしまう。「おばけ怖い理論ですよね。よく知らないものへの恐怖から、グーグルというだけで頭ごなしに否定してしまう」(藤本さん)

 パトリオット法の影響をゼロにはできない。だからこそ藤本さんは、「信じる・信じない」ではなく「リスク管理」の議論にシフトさせた。法令を読み込み、懸念点を整理し、ベンダーと協議を重ね、大学として許容できる条件を詰めていった。

 最後の決め手は金額だった。「今のメールシステムをあと4年使い続けたら、たかだかメールの送受信に、ちょっと言えないくらいの金額ですよ」。

 こんな1ミリもカッコよくない話こそ、各大学で闘うDX推進者たちが求めているノウハウだ。