正式な遺言だと証明されたとしたらB夫さんが全部を相続し、A子さんを始めとするほかの子どもたちは遺留分しか相続できません。遺言がなく亡くなったお父さんの遺産が20億円だとしたら、法定相続分は1人5億円になります。

 しかし、遺言があると20億円全額が長男にいき、ほかの子どもたちの相続分はゼロになってしまいます。ほかの子どもたちが遺留分を請求すれば、法定相続分の半分の1人2億5000万円が長男からもらえるというシステムです(本当の計算は複雑なのですが、ざっくり言うとそんな感じです)。

 私は遺留分ではなく、この遺言がそもそも無効であるという「遺言無効確認訴訟」という裁判を起こしました。お父さんの遺言意思能力がなかったと認められれば、遺言は無効になり、法定相続分で相続できるようになるので、依頼者にとっては前述の例では2億5000万円の利益が発生します。

「ごぶさたしてますぅ~」
裁判官がとった意外な行動とは?

 いよいよ裁判が始まりました。裁判官が、「普通は公正証書遺言が無効になることはなかなかないですが、今回はこのカルテがあるので、判断に迷っています」と言っているのを聞いて、がぜんやる気が出ました。裁判の最終盤には、証人尋問があるのが通例です。

 この遺言を作成した公証人を法廷に呼んで、どのように遺言を作成したのか、くわしい話を聞くことになりました。証人尋問こそが裁判の晴れ舞台。私は綿密に準備をして尋問に臨みました。公証人がこう言ったらこっちからこう攻めたろ、と徹夜してシナリオを細かく書き上げたのです。

 いよいよ当日。私が法廷で待っていると、その公証人が入廷しました。かなりおじいちゃんでしたが、私の立場からしたら意思能力のない老人の遺言を偽造した悪者。「こいつか~懲らしめたる~」と腕まくりしました。

 すると!裁判官という職種は権威づけするために、一段、しもじも(弁護士)よりも高いところでふんぞり返っているのですが、その裁判官が法壇からパッ!と飛び降りてきて、その公証人に「センパイ~ごぶさたしてますぅ~」と挨拶したではありませんか!