人に何かを強制したり損得勘定に訴えたりするのではなく「やりたい」という気持ちに働きかけて自然に行動を促す方法こそが仕掛けだからです。

たとえひっかかっても
笑顔になれる「仕掛け」

 ご紹介した実例は、仕掛けの典型です。仕掛けは風景のなかに溶け込むように、またはちょっとしたデザインのように存在していて、仕掛けとは気づかれないものもあります。

 ふと引き寄せられた人は仕掛けた人の思い通りの行動をとり「まんまと」はまってしまいます。

 仕掛けにかかった人は「ひっかかったな」と気づいても嫌な気持ちにはなりません。

「こりゃ一本とられたな」とクスッと笑っておしまいです。

 社会課題を解決するとき、人々の行動変容が必要となる場合が多々あります。ゴミを分別する、シートベルトを着用する、歩きスマホを規制する……。でもどんなに「社会のため」とわかっていても、人に強制されてはいい気持ちはしません。

 この点、仕掛けは人の気持ちをそそるしくみを用いて行動を促します。不快感を与えることなく、みんなが幸せになれる解決法を生み出すことができます。

 私はもともと人工知能(AI)の研究者で、コンピューターに蓄積された膨大なデータから人間の意思決定に役立つ知識を発見しようと日々取り組んでいました。ところがある日「世の中のほとんどの事象はデータになっていない」ことに気づきました。

 パソコンを閉じて一歩外に出れば、日の光や鳥のさえずり、道ばたに咲く花や子どもの声など無数の刺激が五感を呼び覚まします。人とちょっと会話を交わしただけでも、心が明るくなったり揺れ動いたりします。

 当たり前のことですが、これらの事象はデータとして取り込まれていません。だとしたら、まるで世界のすべてを網羅しているかのように思われているデータとはいったい何物なのでしょうか。

 もちろんAIはとても有効なツールです。今まで不可能と思われていた課題を、人間の想像をはるかに超えるスピードで解決してくれます。人類の社会課題を解決するために不可欠なツールであることは間違いありません。