真実の口を知っている人はもちろん、知らない人も口を見るとつい手を入れてみたくなります。口のなかにはセンサー式の手指消毒器が仕込んであり、手を入れるとアルコール消毒液が噴射されるしくみになっています。

 効果を測るため、勇気の口と通常の消毒器をそれぞれ3時間ずつ設置したところ、通常の消毒器利用者が45名だったのに対し、勇気の口は215名でした。

 差し込んだ手にいきなりシュッと消毒液がかかるので驚く人もいましたが、その後は笑顔になりました。

「利用者が幸せになる」という仕掛けの大事な要素を示す実験になりました。

天王寺動物園で発見した
「仕掛学」の原点となるネタ

 大阪市の天王寺動物園へ行ったときのことです。「アジアの熱帯雨林」ゾーンの片隅に、望遠鏡のような筒形のものがあることに気づきました。

 地上から1mくらいのところにあり、ちょうど真ん中に穴が開いているため、通りかかった子どもたちは次々に覗き込んでいました。

 人は穴を見るとつい覗いてみたくなるものです。私も思わず立ち止まり穴を覗いてみると、筒の先には象の糞(精巧な作り物)が見えました。

 筒1本で、誰に強制されたわけでもないのに人々は立ち止まり、その穴を覗いてしまいます。ただの筒ですが、このシンプルな仕掛けによって私の行動も変化しました。

 これが「仕掛学」の原点です。「仕掛け」とは、人の行動を促したり、行動を変化させたりするために考案されたしくみのこと。こうしたしくみを体系的に捉え、学問として発展させたものが「仕掛学」です。

 人の行動を変える方法にはさまざまなものがあります。

 もっとも簡単なのは相手の選択肢を奪うことです。たとえば階段とエスカレーターがあるときに階段を使ってほしければ、エスカレーターを止めればよいのです。

 罰則や罰金で行動を制限する方法もあります。また、旅行の「早割サービス」のように「お得感」で行動を促すやり方もあります。しかし、このようなやり方は仕掛けとは呼びません。