デザインの専門性を
事業運営のエンジンにするための三つの力

企業のデザインを任されるとは、どういうことか――対話を通じて考える、CDOという役割とその条件JUN KATSUNUMA
多摩美術大学卒業。NECデザイン、ソニー、自身のクリエイティブスタジオにてプロダクトデザインを中⼼に、コミュニケーション、ブランディングなど、幅広くデザイン活動を行う。国内外デザイン賞受賞多数。デザイン賞審査員も務める。2020年 NEC入社、デザイン本部長として全社デザイン統括を行う。2022年度よりコーポレートエグゼクティブとして、経営企画部門に位置付けられた全社のデザイン、ブランド、コミュニケーション機能を統括。2023年より現職。

 ここまで、さまざまな企業や人の取り組みを見てきたが、デザインを経営や事業のエンジンとして機能させていくためには、デザインの専門性を、経営陣や社員に“納得”してもらう必要がある。

 そのために求められるのは、大きく分けて三つの力である。

 一つ目は、クリエイションのスキルである。これは突き詰めれば、デザイナー一人一人の能力そのものといっていい。

 デザインには必ず対象者がいる。ユーザーはもちろん、企画を立てた人、開発を担った人、意思決定をした人など、プロダクトの周囲には多様なステークホルダーが存在するのだ。デザイナーに求められるのは、そうした人々から渡されたバトン――意図や期待、制約条件――を正確に受け取り、それを共感される優れたアウトプットとして返す力である。

 デザインの専門性が単に造形としての完成度に向かうものでは、経営の手段たり得ない。デザインの「深さ」とはそのプロセスに関わった人たちの思いを、きちんと肯定される地点に着地させるものといえるだろう。

 二つ目は、成功事例の根本にある要因を分析し、説明できることである。

 どれほど評価の高いアウトプットであっても、「結果としてうまくいった」で終わってしまっては、組織の資産にはならない。重要なのは、そのアウトプットがなぜ共感を得ることができたのかを、分析し、説明できることである。

 その造形に至るまでに、どのような問いを立て、どのような仮説を置き、どのようなアプローチや手法を用いたのか。そうしたプロセスを含めた言語化ができて初めて、アウトプットは「意図した価値」として正しく届いたといえる。

 それは再現可能な成功として、次のデザインへと引き継がれていくための条件なのである。

 三つ目は、成功事例を他の領域へと展開できる力である。

 二つ目で示したように、成功の要因を分析し、説明できて初めて、その知見は他の領域へと展開可能になる。ただし、それは単に成功事例を横滑りさせれば良い、という話ではない。

 プロダクトや事業、組織の条件が変われば、前提も制約も異なる。同じ手法をそのまま当てはめても、同じ成果が得られるとは限らない。

 重要なのは、対象や条件を変数として捉え直し、「何を保ち、何をどう変えるべきか」を見極めながら適用していく力である。

 成功の“形”をなぞるのではなく、成功を導いた構造や考え方を抽象化し、新たな文脈に合わせて再設計する。その応用力こそが、デザインの価値を一部門や一製品にとどめず、組織全体へと広げていく。

 このように、多層でありながら連続したデザインの営み、専門性として積み重ねていくことが、デザイナーやデザイン部門に対する納得と信頼を生み出す。そして、その関係性こそが、デザインを組織の中枢に根付かせ、経営や事業と本質的に結び付ける原動力になる。

 一連の対話を通じて私が改めて実感したのは、この循環をつくり出せるかどうかが、デザイン部門のトップが備えるべき「深さ」なのだ、ということである。