私は香奈のことを知り尽くしていて、夫がどれだけアプローチをしたとしても、香奈が振り向くことは絶対にないとわかっていたからかもしれません。

 夫自身も香奈を見ていれば、自分が恋愛対象にならないことは自覚していたはずです。だからこそ、無理やり自分のものにするタイミングを見計らっていたのです。

 香奈は突然、職場を辞めることになりました。この決断には私も夫も驚かされました。憧れの人が職場から消えてしまうことは、夫にとって何より耐えがたかったようです。香奈の送別会の日、夫は香奈を自宅までタクシーで送り届け、香奈が自宅に入ろうとしたところを襲ったのです。

 香奈の自宅の最寄り駅は、私たち夫婦の自宅の最寄り駅の隣でした。夫は飲み会の度によくタクシーで香奈を自宅に送り届けて帰ってきていました。ガードが堅い香奈ですが、さすがに親友の夫が手を出すとは考えなかったでしょう。

 夫は夫婦の新居を選ぶ際も、香奈の自宅の近くを選んでいたのでした。ふたりの思い出のすべてが、事件によって汚されていきました。私は夫の歪んだ妄想に全く気が付くことができなかったのです。

 あの香奈が、強引に押し倒されて黙っているはずがありません。しかし夫は、性的暴行された女性は沈黙すると思い込んでいたのです。香奈も決して例外ではないと。

 ところが香奈は大声で助けを求め、すぐに夫は逮捕されました。

裁判費用が膨れ上がり
生活資金は底をついた

 夫がいきなり逮捕され仕事もクビになり、私は一時、路頭に迷いました。貯金は結婚式の費用などで使い果たしていてほとんど残っておらず、夫の給料だけが頼みの綱でした。しかし、示談金や弁護士費用で、あっという間に夫の資金も底をついてしまったのです。

 私の実家は元々裕福ではなく、両親は年金暮らしで私を扶養できる余裕などありませんでした。それでも夫は、実家の両親がなんとかしてくれるので心配ないと言っていました。

 正直なところ、私は夫の家族が苦手でした。夫の実家は田舎で大きな旅館を経営していました。いかにも鼻持ちならない雰囲気で、私の実家を見下しているのがよくわかるのです。