テクノユートピア主義を志向する
アルトマンの野心
すべての国民にアメリカの国土と企業の持分をわずかずつ与えて、VC(編集部注/ベンチャーキャピタル)が最も重視する、全当事者の「利害が一致した状態」を実現するというのだ。このエッセイは、未来について大胆な主張をし、それをもとに自分の事業を売り込むという、典型的なベンチャーキャピタリストの宣言とも取れる。
だがその一方で、AIとUBI(編集部注/ユニバーサル・ベーシック・インカム)、アフォーダブル住宅、テクノユートピア主義などの、アルトマン肝いりのプロジェクトや関心を見事に統合し、1つの世界観にまとめ上げるものでもあった。
アルトマンはかつてないほど威厳に満ちていた。「これから何が起こるのか、またこの新しい状況を乗り越えるためにどんな計画があるのかを、これから説明しよう」と彼が大まじめに書くと、多くの人がそれを信じようとした。
YC退任後も、文明を築くというアルトマンの野心はとどまるところを知らなかった。彼の個人投資は、優れた科学技術や創業者への全般的な「応援」というよりは、このエッセイで説明された未来を実現するための、きわめて具体的な「手段」の色合いを強めた。
すべての人にベーシックインカムを!
アルトマンが配ったワールドコインとは?
2019年には、UBIを「どうやって」配布するのかという疑問に答えるかのように、「ツール・フォー・ヒューマニティ(TFH)」という会社を密かに立ち上げ、2021年にこの会社が仮想通貨「ワールドコイン」を発行すると発表した。
ワールドコインは「共同所有される世界的通貨で、できるだけ多くの人に公平に配布されます」と、同社のウェブサイトに書かれている。
この通貨を手に入れるには、「オーブ」という、クロームメッキされたボウリングボール大の球体をのぞき込んで、虹彩(こうさい)のスキャンを受けるだけでいい。コインは虹彩という、各人に固有の識別子に結びつけられるから、誰かに所有権を奪われることはない。
営利会社であるTFHは、アンドリーセン・ホロウィッツやコースラ・ベンチャーズなどの一流VCや、FTX(編集部注/大手仮想通貨取引所会社で、現在は廃業)の創業者サム・バンクマン=フリードなどの仮想資産愛好家から、計5億ドル超を調達し、試験的な試みとして、まずケニアやインドネシアなどの国で業者を雇ってオーブを巡回させ、人々に登録を呼びかけた(ワールドコインの一部は投資家のために確保され、残りが無償配布される)。







